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葬儀費用は誰が負担するのか

1 問題の所在

通帳と電卓

相続人の一人が、喪主として、葬儀費用を負担して葬儀を行った後、法定相続分に従い、他の相続人に葬儀費用の負担を求めることが良くあります。
また、相続人以外の者が喪主として、葬儀費用を負担して葬儀を行った後、相続人に対し、法定相続人に葬儀費用の負担を求めることもあります。

このような場合、その請求は認められるのでしょうか。

この問題に関しては、未だに最高裁判所が判断したことはありませんが、名古屋高等裁判所で、リーディングケースとなっている判決がありますので、紹介します。

2 裁判例(名古屋高等裁判所判決平成24年3月29日(平成23(ネ)968号)の紹介

⑴ 事案の概要

本件は、亡Aの兄弟である控訴人Bが、亡Aの子である被控訴人らに対し、亡Aの葬儀費用等を支出したとして不当利得返還請求をした事案である。

亡A(昭和18年6月8日生)は、平成21年12月10日に死亡したが、その相続人は、長男である被控訴人C(昭和43年11月16日生)及び二男である被控訴人D(昭和46年10月7日生)であって、各自の法定相続分は、それぞれ2分の1である。

控訴人B及び亡Aは兄弟である。

控訴人Bは、その後、E斎場(株式会社E)との間で亡Aの葬儀につき契約をし、亡Aの通夜は、平成21年12月16日に、葬儀は同月17日に行われることになった。

被控訴人Cが、同月16日午後3時30分ころ、葬儀会場に赴くと、控訴人らから、亡Aの喪主をするよう要請されたが、被控訴人Cはこれを断った。

そこで、控訴人Bが亡Aの通夜、葬儀の喪主を務めた。

控訴人Bは、亡Aの葬儀等につき、平成21年12月14日にFクリニックに対し、死体検案書作成費用として5250円を、同月17日に名古屋市に対し、火葬費用及び休憩室利用料として5万4500円を、同月19日にG寺に対し、お布施として25万円を、同月17日に株式会社Eに対し、御供花代として2万100円及びお供物代として4万2000円を、同月25日に株式会社Eに対し、葬儀費用として72万3720円(ただし、ほかに、事前に控訴人Bが会費として支払っている48万円が葬儀費用に充当されている。)をそれぞれ支払った。

⑵ 裁判所の判断(抜粋)

「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。なぜならば、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり、他方、遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので、その管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。

これを本件についてみるに、上記(1)の認定事実からすると、亡Aは予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡Aの相続人である被控訴人らや関係者である控訴人らの間で、葬儀費用の負担についての合意がない状況において、控訴人Bが、亡Aの追悼儀式を手配し、その規模を決め、喪主も務めたのであるから、控訴人Bが亡Aの追悼儀式の主宰者であったと認められ、控訴人Bが亡Aの追悼儀式の費用を負担すべきものというべきである。」

3 所感

本件では、「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担」するのが相当であるとして、葬儀費用は、原則として、葬儀の主催者≒喪主が負担すべきと判断しました。理由としては、「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当」であるとしています。

裁判所は、葬儀の主宰者が葬儀を行うかどうかや葬儀を行うとしてどれだけの費用をかけるのかを決めて、葬儀に関する契約を締結しているのであるから、葬儀の契約に基づいて喪主に支払義務があり、他方で、葬儀費用の負担について合意をしていない相続人等には、与り知らない葬儀の契約の義務を負わせるべきではないと考えていると思われます。

そのため、「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結」した場合には、被相続人自身の債務として、相続債務になることから例外としていると考えられます。

また、「亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意」がある場合には、自らが葬儀費用の債務を引き受ける合意をしていることから、当然、負担を負っても良いことになります。

参考になる裁判例であるため、今回、紹介しましたが、個々の事例によって事実関係は異なり、本裁判例と同じ判断が出るとは限りませんので、実際に問題に直面している方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。