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離婚後、祖父母は「監護者」として認められる?

1. 子供の親権はもらえなくても「監護者」になれるのか?

離婚事件において、当事者間で折り合いがつかず、裁判で争われる点には様々なものがあります。

話し合い

その中でも、近年では、離婚の際の親権者や監護者の指定をめぐる紛争が激化している傾向にあります。

例えば、

  • 離婚には合意しているが、子の親権をめぐって調停や審判となるケース
  • 子の「親権者」となれない場合でも、「監護者」指定を求めるケース

などが増加しています。

それでは、祖父母が孫の「監護者」として指定を求めることは認められるのでしょうか?

祖母

この点について、近時、最高裁で判断されました。

2. そもそも監護権とは?

離婚等に伴い、父又は母のいずれか一方のみが「親権者」となった場合には、「親権者」となった親が、その親権に基づいて子の監護を行います。

※ここでいう「監護権」とは、「身上監護権」と「財産管理権」という親権における2つの大きな内容のもののうち、「身上監護権」のことを指します。

親子

そして、「監護者」は、

  • 監護教育権(民法820条)
のほか
  • 子の居所指定権(民法821条)
  • 懲戒権(民法822条)
  • 職業許可権(民法823条)
等の権限を有します。

もっとも、「親権者」となった者が、必ずしも子の日常の監護に関して最も適任者であるとは限らない場合もあります。

そのため、民法では次のとおり、離婚に際して
「親権者」とは別に「監護者」を定めることができる旨を規定しています。

民法766条
1項 父母が協議上の離婚をするときは、
  • 子の監護をすべき者
  • 父又は母と子との面会及びその他の交流
  • 子の監護に要する費用の分担
  • その他の子の監護について必要な事項
は、その協議で定める。

この場合において、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3項 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他「子の監護について相当な処分」を命ずることができる。
4項 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

「親権者」と「監護者」を別で定めるべき場合とは、例えば、

子が乳幼児であり、母親による常時の監護が必要とされる。
しかし、仕事で日中不在にすることが多い父が「親権者」となった場合

などが考えられます。

3. 子供の利益が最優先に判断される

そして、「監護者」指定の判断基準は、「子の福祉」を最も優先すべきです。

具体的には、

  • それまでの監護状態の推移
  • 子に対する愛情や監護の意欲
  • 居住環境や家庭環境
  • 収入等の生活能力
  • 子の年齢・性別・意向

などを総合的に考慮して判断することになります。

親子

また、「親権者」の意思に反して子の親でない第三者を「監護者」と定めることも、「親権者」が親権を行使するのに著しく欠けるところがあります。

『「親権者」に親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになる』
と認められるような特段の事情がある場合に限り、認められた裁判例があります(東京高等裁判所昭和52年12月9日決定)。

民法766条は、離婚に際して父母の協議において「監護者」を定めると規定されているのみです。

『父母以外の第三者が「監護者」指定の申立てをすることができる』
とは規定されていません。

しかしながら、「子の福祉」のためという民法766条の趣旨からすると、「子の福祉」にかなう場合には、両親以外の第三者にも「監護者」指定の申立権が認められるべきと考えることもできます。

4. 大阪家庭裁判所と大阪高等裁判所は、祖母を監護者として認めた

実際に、次で見る大阪家庭裁判所および大阪高等裁判所では、子を事実上監護していた祖母による「監護者」指定の審判申立てが認められました。

親子

問題となった事件は、未成年の子について、離婚後に親権を持った母親が多忙であったため、母方の祖母が子の出生間もない時期から子と同居して、子を事実上監護していたというものでした。

母親は再婚相手の父親とともに子の養育を望みました。
しかし、子と新しい父親との関係が悪いなどして祖母が反対し、またその子も祖母との生活を続けたいと望んでいました。

親子

そこで祖母は、自身が子の「監護者」として指定するよう、家庭裁判所に対して、「監護者」指定の審判を申し立てました。

大阪家庭裁判所および大阪高等裁判所では、

子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の「監護者」である祖父母等も、家庭裁判所に対して、子の「監護者」指定の審判申立てをすることができる

と判断しました。

その上で、以下のような事情から、事実上の「監護者」である祖母を「監護者」として定めるのが相当であると判断しました。

理由(抜粋)
1 未成年者は、再婚相手の父親に対して嫌悪感を抱くとともに、母親に対しても反発を強く感じていたこと。
2 未成年者は、母親が再婚してから情緒が不安定となり、
通学していた小学校で再婚相手の父親の姓にはなりたくないと言って泣き出したり、頭痛や嘔吐により、小学校を欠席するようになっていたこと。
3 未成年者は、医師によって心身症であると診断され、
母親と再婚相手の父親に対する不安や恐怖が著しく強く、
その関係が深まるにつれ、症状が悪化していること。
4 未成年者の子自身も祖母と生活することを望んでいること。

5. 最高裁は、判断をくつがえし、祖母を孫の監護者と認めなかった

しかしながら、最高裁判所は、大阪家庭裁判所および大阪高等裁判所の判断を覆し、次のように判断しました。

【判旨抜粋(最高裁判所第一小法廷令和3年3月29日決定)】

民法766条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。

他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、監護の事実をもって第三者を父母と同視することはできない。

なお、子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが、このことは、第三者に「監護者」指定の申立てを許容する根拠となるものではない。

したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。

法廷

このように、最高裁判所では、民法766条の規定を厳格に解釈しました。

同条の「監護者」指定は子の父母による申立てを予定していること

そして、民法その他の法律にも、

子を事実上監護してきた第三者が「監護者」指定を申し立てることができる旨を定めた規定がないこと

から、第三者である祖母による申立ては認めませんでした。

6. みだりに第三者の「監護者」指定を乱用されたり、悪用されることの抑止にはなったが、子供の幸せという観点からするとどうなのか

以上のように、現時点においては、子を事実上監護する第三者からの「監護者」指定の申立ては認められないと考えられます。

この最高裁の判断について、民法766条の解釈を厳格に捉えたことにより、子の「監護者」としてふさわしくない第三者による、濫用的な「監護者」指定の申立てを排除することができ、子の福祉にかなうと評価することもできます。

遊具

しかしながら、「監護者」指定の申立てにおいては、子の福祉を最も重視すべきである以上、上記のような事情があった本件においては、最高裁の判断が、果たして子の福祉を全うすることができたのかについては疑問が生じます。

現実にも、父母が子の監護を十分にすることができないため、祖父母等が親代わりに監護しているケースが多くあると考えられます。

また、児童虐待など親権が停止される事態には至らないものの、監護能力に懸念がある父母のケースでは、第三者による「監護者」指定の審判申立が認められないことにより、子は不安定な環境に置かれる可能性もあります。

7. 最高裁判決が出た以上は、法改正を待つしかない状況

ただ、今回、最高裁が上記のように判断した以上、現行民法では、第三者による「監護者」指定の審判申立ては困難であると思われます。

相談室

そのため、最高裁の判断を前提とするならば、父母以外の第三者による「監護者」指定の審判申立てが認められるよう、法改正を待つしかないでしょう。