名古屋・金山の弁護士法人名古屋総合法律事務所金山駅前事務所へ 
相続相続税, 離婚, 交通事故, 債務整理, 不動産, 中小企業の6分野に専門特化

 

子の引渡しの強制執行の改正

1 改正の主なポイント

① 直接的な強制執行の申立ての要件を明確化した。
② 債務者(引渡しの義務者)の立会いが不要となった。
③ 債権者(引渡しの権利者)又はその代理人の立会いが必要となった。
④ 債務者の住所以外の場所での執行ができる場合を明確化した。

2 子の引渡しの強制執行の改正が行われた理由

令和2年4月1日に、子の引渡しの強制執行を新たに定めた改正民事執行法が施行されました。今までの民事執行法には、子の引き渡しに関する強制執行を直接定める規定が存在していませんでした。

そのため、動産(土地及び定着物ではない物)の引き渡しに関する規定を準用して強制執行を行っていました。

しかし、子どもには、物とは異なり、意思や感情がありますので、物と同一の扱いをしてはいけません。そのため、執行が行われる現場でどこまでの行為が許されるのか,判断が困難となる事態が生じていました。

また、改正前には、債務者が、子と一緒に執行の現場にいることが必要であると考えられており、債務者が不在の場合や債務者が強く抵抗するなどした場合に、強制執行が不能になってしまうケースが頻繁に発生し、実効性がなく、子の心身に対しても負担を与えることもありました。

そのため、それらの問題点等を解消するために、子の引渡しの強制執行を規定する改正が行われることになりました。

3 主な改正の内容

⑴ 直接的な強制執行の申立ての要件
改正前には、どのような場合に、直接強制ができるのかが不明確でした。改正法では、以下の場合に、直接的な強制執行の申立てができることが定められました。

① 間接強制決定が確定した日から2週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては、その期間を経過したとき)。

② 間接強制の方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。

③ 子の窮迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。

そのため、直接的な強制執行の申立てをする場合には、上記のいずれかに当たることを具体的事情と資料で説明することになります。

⑵ 債権者又はその代理人の立会いが必要
ア 債務者の立会いから債権者又はその代理人への立会いへ
法改正前には、執行の場所に、債務者が、子と一緒にいることが求められていました(同時存在の原則)が、執行が不能になったり、債務者が取り乱す状況を子が目撃したりするなど、子の福祉を害するような場合があるため、改正法では、同時存在の原則は採用されませんでした。

他方で、債権者又はその代理人が立ち会うことを要することになりました。

債権者又はその代理人の立会いを必要としたのは、債権者は裁判所の手続きにより、子を適切に管理することができると認められた者であり、子が状況を理解できずに生ずる恐怖や混乱に対応することができると考えられるからです。

イ 代理人は、債権者に準ずる立場ある人を想定
債権者の立ち会いができない場合には、代理人の立会いで認められる場合もありますが、債権者の代理人は、子との関係において債権者に準ずる立場にあることが必要であるとされていますので、誰でも認められるわけではありません。

「当該代理人と子との関係、当該代理人の知識及び経験その他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるとき」には、代理人の立会いでも良いと裁判所が決定できるとされています。

そのため、代理人としては、子の祖父母等の親族など、子と一定の親しい関係にある者が想定されます。

⑶ 執行場所―特に債務者の住所以外での執行
執行場所については、債務者の住居その他債務者の占有する場所を原則としていますが、「子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周辺の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」には、占有者の同意又は裁判所の許可を受けて、債務者の占有する場所以外でも執行ができると規定しました。

裁判所の許可の要件は、「子の住居」であることと、「債務者と当該場所の占有者との関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めるとき」と定められました。

そのため、債務者が祖父母に子を預けており、債務者が子と一緒に暮らしていない場合に、その祖父母の自宅での強制執行をするためには、裁判所の許可を得る必要があります。

4 実際に強制執行の申立てをする場合

子を引き渡す内容の調停が成立したり,子の引渡しを命じる審判が確定したりしたにもかからず、債務者が、債権者に対して、任意に子を引き渡さない場合には,強制執行の手続として、子の引渡しの間接強制、直接的な強制執行の手続を利用することができます。

子の引渡しの間接強制、直接的な強制執行に関する申立てをするための書式や必要な書類等については、裁判所の以下のページで公開されています。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/vcmsFolder_983/vcms_983.html

子の引渡しの審判等や子の引渡しの強制執行は、適切な主張をして、迅速に行う必要があります。
強制執行の手続きは明確化されましたが、手続きの内容を理解するのは容易ではありません。

そのため、子の引渡しの手続きに関する専門的な知識を有する弁護士に相談・依頼をして、進めた方が良い場合が多いといえます。