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年5日は有休を取りましょう

自由に有休が取れますか?

2021年5月26日、日本労働調査組合が、「中小企業の有給取得に関するアンケート調査」の結果を発表しました。

この調査は、2021年4月15日~同月17日の間に行われ、調査対象者は20歳~49歳の会社員男女で、530人から有効回答が得られました。

その調査結果は次のとおりになります。

中小企業の有給取得に関するアンケート調査結果

※出典元:日本労働調査組合「あなたは自由に有給取得が出来る環境ですか?」

伸びをする女性

上記のように、有給休暇を自由に、もしくは、ある程度自由に取得できると回答した人は、74.3%となりました。

他方、自由に有給休暇を取得できないと回答した人は25.7%、つまり4人に1人は自由に有給休暇を取得できない状況にあります。

絶望する男性

これは、働き方改革法案の成立に伴い、2019年4月1日から、使用者に対して年5日の有給休暇を付与する義務がある中においては、大きな問題であると思われます。

そこで今回は、そもそも有給休暇制度とは何か?そして年5日の有給休暇の付与義務とはどのようなものか?について解説していきます。

そもそも有給休暇とは

有給休暇は、労働基準法に規定されています。

使用者は、一定の要件を満たした労働者に対して、法所定の日数の有給休暇を与えなければなりません(同法39条1項)。

他方、使用者は有給を労働者が請求する時季に有給休暇を与えなければならないとされています(同条5項)。

つまり、労働者による有給休暇の取得について、使用者の承諾は不要とされています。

この有給休暇の法的性質は、

年次有給休暇の権利は法定の要件が充足されることにより法律上当然に発生する権利である(労働者の請求を待って生じるものではない)
労働者がその範囲内で時季指定をしたときは、使用者が時季変更権を行使しない限り年休の効果が発生するもの

とされています(最判昭和48年3月2日民集27-2-191)。

デスク メモ 向かい合うオフィスワーカー

このように、有給休暇の権利は、法定の要件を満たすことにより法律上当然に発生する権利(年休権)と、労働者がこの年休権の目的物を特定する権利(時季指定権)の2つの権利から構成されていると考えられています。

そして、有給取得の発生要件である、

1年間(初年度は6か月)継続勤務していること
全労働日の8割以上を出勤していること

の2点を満たしていれば、労働者は有給休暇を取得することができます。

この対象労働者には、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

上記①の「継続勤務」とは、労働契約関係が実質的に存続していることを意味します。

期間の定めのある労働契約が更新されている場合や、合併・在籍出向があった場合にも、基本的には継続勤務として取り扱われます。

(東京地判平9年12月1日労判729-26、大分地中津支判平28年1月12日労判1138-19)

また、上記②の「全労働日」とは、労働義務がある日を意味し、労働義務がない日は全労働日には含まれません。

もっとも、上記②は、労働者の帰責事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨であります。

労働者に帰責性のない欠勤日、例えば、不可抗力による休業日や使用者の帰責事由による休業日などは、基本的には「全労働日」や「出勤日」から除外されます。

一方で、業務上の疾病による療養のための休業期間、産休・育休、介護休業などは「全労働日」に含まれますが、出勤したものとみなされます。

有給休暇の付与日数

有給休暇の原則となる付与日数は、次の表のとおりです。

【原則となる付与日数】

継続勤務年数 6か月 1年6か月以上 2年6か月以上 3年6か月以上 4年6か月以上 5年6か月以上 6年6か月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

また、パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者については、有給休暇の日数は、所定労働日数に応じて比例付与されます。

この比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。

【所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数】

所定労働日数 付与日数
6ヶ月 1年6ヶ月 2年6ヶ月 3年6ヶ月 4年6ヶ月 5年6ヶ月 6年6ヶ月
週4日
(年間169日~216日)
7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
週3日
(年間121日~168日)
5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
週2日
(年間73日~120日)
3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
週1日
(年間48日~72日)
1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日
※表中太枠で囲った部分に該当する労働者には、後述する年5日の年次有給休暇を付与する義務があります。

有給休暇の付与に関するルール

有給休暇の付与に関しては、いくつかルールがありますが、主なものは次のとおりです。

遵守すべき事項内容
①有給休暇を与えるタイミング

有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることとされています。

→労働者が具体的な月日を指定した場合には、「時季変更権」による場合を除き、その日に有給休暇を与えなければなりません。

※時季変更権

使用者は、労働者から有給休暇を請求された時季に有給休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時期に有給休暇の時季を変更することができます。

→労働者による年休権行使の効果を消滅させ、労働者に当該日の労働義務を負わせる効果をもちます。

②有給休暇の繰り越し

有給休暇の請求権の消滅時効は2年(労基法115条)

前年度に取得されなかった有給休暇は1年限り繰り越され、翌年度に与える必要があります。

③不利益取扱いの禁止使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしてはいけません(労基法136条)。

上記①に関連する時季変更権について、使用者が時季変更権を適法に行使するための要件である「事業の正常な運営を妨げる」に該当するか否かは、

単に

㋐業務遂行のための必要人員を欠くなど業務上の支障が生じることだけでなく、

㋑人員配置の適切さや代替要員確保の努力など労働者が指定した時季に有給休暇が取れるよう使用者が状況に応じた配慮を尽くしているかどうか

を踏まえ、判断されます。

(最二小判昭62年7月10日民集41-5-1229)

年5日の年次有給休暇を付与する義務

前述したとおり、有給休暇は原則として、労働者が会社に対して請求をし、取得する仕組みとなっています。

もっとも、日本では有給休暇を取得しにくい雰囲気が職場にあったり、業務量が多く人員が不足していたりすることなどの理由から、その取得率は低い状態が続いていました。

PCの扱いに難儀している女性

総合旅行サイトのエクスペディア・ジャパンが行った「世界19か国 有給休暇・国際比較調査2018」によると、2018年の日本における有給休暇取得率は50%で、3年連続最下位でした。

諸外国では、取得率上位3か国のブラジル、フランス、スペインが100%で、日本の次に取得率の低いオーストラリアでは70%でした。

このように、日本の有給取得率は世界的に見てもかなり低い状態でした。

そこで、2018年に「働き方改革関連法案」が成立し、2019年4月1日から、使用者は10日以上の有給が付与されるすべての労働者に対して、毎年5日間、有給休暇を付与することが義務付けられました(労働基準法第39条第7項)。

この年5日の有給休暇の付与義務は、会社の規模を問わず、全企業を対象として一律に導入されました。

具体的には次のような義務となっています。

(1) 対象者

有給休暇が10日以上付与されるすべての労働者が対象です。
この対象労働者には、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

(2) 年5日の時季指定義務

使用者は、労働者ごとに、有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して有給休暇を付与しなければなりません。

単に使用者が5日分の有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に労働者が有給休暇を5日取得していなければなりません。

また、使用者が法定の有給休暇とは別に特別休暇制度を設けている場合、この特別休暇の取得日数は付与義務がある5日間には含まれません。

例

(3) 時季指定の方法

指し示す人

使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。

また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるように、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

単に有給休暇を5日付与すればよいというわけではなく、労働者の希望を聞き、尊重するよう努める必要があります。

(4) 時季指定を要しない場合

すでに5日以上の有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、またすることもできません。

労働者が自ら請求・取得した有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた有給休暇の日数(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除する必要があります。

例えば、

労働者が時季指定権を行使して5日以上の有給休暇を取得した場合

使用者は当該労働者について、その年は5日の付与義務は負いません。


労働者が時季指定権の行使により3日の有給休暇を取得した場合

使用者は足りない2日分の付与義務を負うことになります。

(5) 年次有給休暇管理簿の作成・保存

書類を読む人

使用者は、労働者ごとに時季、日数及び基準日を明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、当該有給休暇を与えた期間及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません(労働基準法施行規則第24条の7)。

ただし、この年次有給休暇管理簿は労働基準法第109条「労働関係に関する重要な書類」には該当しないため、保存義務に違反したとしても罰則規定はありません

もっとも、後述するように、年5日の時季指定義務に違反した場合には罰則があります。

(6) 就業規則への規定

三人 会議

常時10人以上の労働者を使用する会社の場合、休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)になります。

使用者による有給休暇の時季指定を実施する場合には、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。

【参考例】

第〇条

1項~4項(略)

5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

(7) 罰則

有給休暇に関しては、次のような罰則規定があります。

違反条項違反内容罰則規定罰則内容

労働基準法
第39条7項

年5日の有給休暇を取得させなかった場合

労働基準法
第120条

30万円以下の罰金

労働基準法
第89条

使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合

労働基準法
第120条

30万円以下の罰金

労働基準法
第39条
※7項を除く

労働者が請求する時季に所定の有給休暇を与えなかった場合

労働基準法
第119条

6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。

ただ、違反状態の労働者が1人でもいたらすぐに罰則が科されるというわけではなく、まずは労働基準監督署による監督指導が行われることかと思われます。

労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図ることとされています。

有休の取りやすい職場環境を整えましょう

並び立つ三人

有給休暇の取得は、労働者の心身の疲労の回復や生産性の向上、企業イメージのアップなど、労働者・会社双方にとってメリットがあります。

また、年5日の有給休暇の付与義務に違反してしまった場合には、会社に対して多額の罰金が課されてしまうリスクがあります。

現行の労働基準法では、年5日の有給休暇の取得はあくまで最低基準であるため、5日にとどまることなく、労働者がより多くの有給休暇を取得できるよう、職場環境の整備に努めましょう。

弊所の代表弁護士浅野了一は、35年に渡る弁護士経験に裏付けられた豊富な経験と確かな知識により、企業の労務問題についても精通しています。

代表弁護士浅野了一をはじめとする弁護士と社会保険労務士がチームとなり、企業の労務問題の解決に向けてサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

【参考文献】