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長期の別居は年金分割に影響を与えるか。

1 問題の所在

通帳と電卓

長期間の別居をしてから離婚をする場合、別居期間中は、協力して生活をしていないため、年金分割を請求された側から、年金分割の按分割合を0.5(50%)以下にしたいという要望が出ることがありますが、この要望は通るのでしょうか。

婚姻期間44年間中、同居期間が9年間程度である場合に、年金分割の割合を0.5と定めるべきかどうかが争われた裁判例がありますので、紹介いたします。

2 裁判例(大阪高等裁判所決定令和元年8月21日判時2443号53頁)の紹介

⑴ 事案の概要

  • XとYは、昭和49年12月2日に婚姻し、A内で同居し、両名の間には、昭和50年に長男Bが、昭和52年に二男Cが出生した。
  • XとYは、Xの不貞の疑いから諍いとなり、Xは、昭和58年ころ家を出た。その後、昭和60年代の終わりころ、XとYは会って話をしたが、Xは戻るつもりはないと述べた。他方、Yは仕事の関係から、子ども達を実家に預けて、Dに住んでいた。
  • Xは、平成9年ころ、Yの姉の家で、長男B及び二男Cと再会し、Yとも連絡を取り、Xと長男B及び二男Cは同居することになった。その後、XとYの間では、長男Bのサラ金の借金をYに相談するなどのやりとりはあったものの、XとYが、再び同居することはなかった。
  • 平成23年12月16日、Xが60歳になり、年金受給の手続きに必要な別居証明のために、住民票や納税証明書をYの代理人弁護士から送ってもらったことがあった。
  • Yは、平成30年5月19日、大津家庭裁判所に、Xを被告として、離婚訴訟を提起し(平成30年(家ホ)第9号)、平成30年7月2日、Xは請求を認諾した。
  • Xは、Yを相手方として、大津家庭裁判所高島出張所に、「申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。」ことを求めて、年金分割の請求すべき按分割合に関する処分の申立てをした。

⑵ 原審(大津家庭裁判所高島出張所審判令和元年5月9日判時2443号54頁)の判断

  • 年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる三号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべきである(大阪高等裁判所平成21年(ラ)第499号、第607号同年9月4日決定・家庭裁判所月報62巻10号54頁参照)。
  • そこで、本件についてこれをみると、上記認定事実によれば、Xは、昭和49年12月2日にYと婚姻し2子をもうけたが、昭和58年に子を残して家を出て、昭和60年には家に戻らない旨を述べて以後没交渉となっているものである。しかるに本件の対象期間は昭和49年12月2日から平成30年7月2日であるところ、昭和60年以降は申立人と相手方が夫婦としての扶助協力関係にあったものとはみられないのであって、その意味で、上記年金分割の制度趣旨に照らして、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合にあたるものというべきである。
  • 以上その他、本件に現れた諸般の事情を総合考慮すれば、按分割合は、0.35と定めることが相当である。

⑶ 大阪高等裁判所(大阪高等裁判所決定令和元年8月21日判時2443号53頁)の判断

  • そこで、上記特別の事情の有無について検討すると、前記認定のとおり、XとYの婚姻期間44年間中、同居期間は9年間程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成されるべきものである。この点に、一件記録によっても、XとYが別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて、Xに主たる責任があるとまでは認められないことなどを併せ考慮すれば、別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても、上記特別の事情があるということはできない。
  • そうすると、対象期間中の保険料納付に対するXとYの寄与の程度は、同等とみるべきであるから、本件按分割合を0.5と定めることとする。」

3 所感

原審は、昭和60年には家に戻らない旨を述べて以後没交渉となっているものであるということを捉えて、昭和60年以降は申立人と相手方が夫婦としての扶助協力関係にあったものとはみられないとして、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情があると判断し、年金分割の按分割合を0.35とする判断をしました。

(例えば、就業時間外の返信強要や業務に不要なやりとりの禁止等を就業規則で定める、チャットのやりとりを管理者等の第三者も確認できるようにしておく、ビデオ会議は必ず録画する等)

大阪高等裁判所は、長期間の別居があったとしても、XとYが別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて、Xに主たる責任があるとまでは認められないことなどから、例外的な事情はなく、年金分割の按分割合を0.5とする判断をしました。

この裁判例を前提にしますと、夫婦は互いに扶助義務(民法752条)を負っているため、長期間の別居があったとしても、年金分割を請求する側に、別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて主たる責任がある場合は別として、それ以外の場合には、年金分割の按分割合を0.5と判断される可能性が高いといえます。

長期間の別居があった場合の年金分割の判断の際に、参考になる裁判例であるため、今回、紹介をいたしましたが、個々の事案によって事実関係は異なり、本裁判例と同じ判断が出るとは限りませんので、実際に問題に直面している方は、弁護士に相談をすることをおすすめいたします。