先日のブログ「年5日は有休を取りましょう」では、有給休暇の基本的な制度や、使用者への年5日の有給休暇付与義務について解説いたしました。
ただ、実際の労働現場では有給休暇をめぐって様々なトラブルが生じる危険があります。
そこで、よく発生する有給休暇をめぐるトラブルについて、4回にわたりQ&A形式で解説していきたいと思います。
今回の<Part1>では、有給休暇の利用目的や取得手続、付与方法等について解説します。
Q.1 有給休暇の利用目的
私の会社では、社員が有給休暇を申請するとき、所属長にあてて申請用紙を提出することになっています。
この申請用紙には、有給休暇の利用目的を記入する欄があります。
このように、会社が労働者に対して有給休暇の利用目的を聞くことは、法律上問題はないのでしょうか?
A.1
有給休暇をどのような目的で利用するかは、労働者の自由です。
会社に利用目的を伝える必要はありません。
判例では、
年次休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である
として、
年休自由利用の原則を認めています。(最二小判昭48・3・2民集27・2・191)
そのため、労働者は有給休暇を取得する際に、その利用目的を会社に伝える必要はありません。
仮に伝えた利用目的と異なる目的で利用したとしても、有給休暇成立の効果には何ら影響を与えないものとされています。
虚偽の目的を記載した有給届の提出を懲戒事由に該当するとした裁判例(東京高判昭55・2・18労民集31・1・49)もありますが、年休自由利用の原則からは疑問があります。
ただし、そもそも利用目的を伝える必要はないため、労働者としては「私用のため」と答え、あえて虚偽の目的を伝えることは避けるのが無難かと思われます。
他方、会社としては、労働者に利用目的を任意で記入させているのであれば、それ自体には問題はありません。
しかしながら、
・利用目的によっては有給休暇の取得を認めない、
あるいは
・利用目的を記入していないと申請を受理しない
といった運用をしている場合には、年休自由利用の原則に違反してしまいます。
なお、労働者の時季指定によって「事業の正常な運営が妨げられるおそれ」がある場合に、労働者の利用目的によっては時季変更権を行使することを差し控えようという趣旨で、使用者が労働者に利用目的を尋ねることは差し支えないものとされています。
Q.2 争議行為目的の有給休暇の利用
先日、私とは別の会社で勤務している友人から、会社に対して労働争議をするため、私に応援に来てくれないかと頼まれました。私が法学部出身であり、労働法ゼミに所属していたことから、応援を頼んだのでしょう。
そこで、他社の労働争議に応援に行くことを利用目的として記載した場合、有給休暇は取得できるのでしょうか?
A.2
他社の争議行為のための有給休暇の利用は認められます。
ただし、実質的に所属事業所に対する争議行為に当たる場合には認められません。
Q.1のとおり、有給休暇をどのように利用するかについては、原則として労働者の自由とされています。
しかし、判例では、争議行為への利用について、
本来、争議行為と有給休暇とは相容れない性格のものであり、争議行為であって同時に有給休暇であるという事態はありえず、認められない
とされています。(前掲最判昭48・3・2)
なぜなら、当該事業所の業務の正常な運営を阻害する目的で有給休暇を利用することは、
「適法な時季変更権の行使によって事業の正常な運営の確保が可能である」という有給休暇制度の前提を無視し、制度趣旨に反するからです。
もっとも、この場合の争議行為とは、その労働者が所属する事業所における争議行為であります。
他社の争議行為への応援はもちろん、同一企業であっても、その労働者が所属していない他の事業所の争議行為に対する応援は含まれないと考えられています。
そのため、他社の争議行為の応援のため有給休暇を利用することは、あくまでも労働者の自由であるといえます。
Q.3 有給休暇の取得手続き
私の会社では、有給休暇を取得する際には申請用紙を上司に提出し、上司の印鑑をもらわなければならないという手続が就業規則に定められています。
所定の手続を経て承認を得なければならないとする就業規則は問題ありませんか?
A.3
所定手続の不履行を理由に有給休暇を付与しないことは違法です。
有給休暇は、法定の要件を満たした労働者が、休暇の始期と終期を特定し、使用者が時季変更権を行使しない限り、その効果が確定的に発生します。
したがって、取得手続によって有給休暇の効果が左右されることはありません。
一定の手続を定めることは使用者の自由ですが、労働者がその手続を履行しないことを理由に、有給休暇の利用を認めないことは労働基準法39条に違反します。
なお、所定の手続を履行しない労働者に対して、手続違背に関する責任を追及することは可能であると思われます。
Q.4 勤続6か月未満の労働者への有給休暇の付与
私の会社では、労働者の雇入れ日が一律ではなく、4月入社の人もいれば、9月入社の人もいます。労働者ごとに有給休暇の付与日を変更すると、管理が煩雑になってしまうため、中途で入社した人も一律に4月1日入社として扱い、6か月後の10月時点で、勤続6か月未満の労働者にも有給休暇を与えています。
このような取扱いは適法でしょうか?
A.4
法定基準を上回る付与のため可能です。
労働基準法39条が定める有給休暇の発生要件の1つとして、6か月間以上の継続勤務が必要とされています。
しかし、この規定はあくまでも最低基準を定めたものであるため、この基準を労働者にとって有利なように定めることは使用者の自由です。
そのため、継続勤務が6か月未満の労働者に対して有給休暇を付与することは、何ら差し支えありません。
以上のように、有給休暇をどのように利用するかについては、原則として労働者の自由です。
強制的に利用目的を聞き出すことや、その利用目的を理由に有給休暇の申請を拒否することは、法律違反となってしまいます。
また、有給休暇の取得手続について、労働基準法で具体的に規定されているわけではありません。
会社の労務管理の利便のために有給休暇の取得手続を定めることは可能ですが、その取得手続の不履行を理由に有給休暇を認めないとしてしまうと、法律違反となってしまうことには注意が必要です。
次回の<Part2>では、有給休暇における休日労働日の取扱いや会社の休業との関係等について解説したいと思います。
【参考文献】