前回に引き続き、有給休暇に関するQ&AのPart2として、有給休暇における休日労働日の取扱いや会社の休業との関係等を解説していきます。
昨今の新型コロナウイルスの蔓延や、それに伴う政府の緊急事態宣言による休業要請によって、通常とは異なる不規則な事業活動を余儀なくされた方も多いかと思います。
今回の解説では、そのような会社が休業していた場合における有給休暇の取扱い等について解説しているため、ご参考いただければと思います。
Q.5 休日労働日の取扱い
私の会社では、納期に間に合わせるために、休日出勤が必要な時があります。
この場合、休日労働をさせた日は、全労働日に含まれますか?
A.5
含まれません。
労働基準法39条における「全労働日」とは、原則として、労働者が労働契約上、労働義務を課せられている日を意味します。
就業規則等で休日と定められている所定休日は、全労働日には含まれません。
これは、休日に労働をさせても変わることはありません。
よって、休日労働は全労働日に含まれません。
Q.6 労働者の責めによらない休業日の取扱い
私の会社は、社長が高齢となり体力・気力ともに低下してきたことから、事業拡大路線を変更して、事業の縮小をすることになりました。今後は生産調整等を図る予定です。
そこで、売上減少による生産調整等を理由とした休業日や、地震など不可抗力事由による休業日は、有給休暇の算定において全労働日に含まれますか?
A.6
使用者側に起因する経営、管理上の障害や不可抗力による休業は、出勤率の算定に含まれません。
「全労働日の8割以上の出勤」という要件は、
自らの責めに帰すべき事由による欠勤率が高い労働者を、
その対象から除外する
趣旨で規定されています。(最一小判平25・6・6労判1075・21)
この趣旨から、労働契約上、労働義務が課されている日に就労しなかったとしても、
①労働者に帰責性のない不就労日
については、「全労働日」および「出勤日」の双方から除外し、出勤率の算定には含めないものとされています。
他方、
②使用者の強い帰責性により就労できなかった日
および、
③労働者が法律上の権利を行使して休業している日
については、
使用者の帰責性の考慮および労働者の権利保障の観点から、
出勤率算定から除外するのではなく、「全労働日」に含めた上で、
「出勤日」として算定すべきもの
とされています。
そのため、売上減少による生産調整を理由とした休業日は、上記①に該当するものとして出勤率の算定から除外されます。
また、地震など不可抗力による休業日も上記①に該当し、出勤率の算定から除外されます。
【参考】
分類 | 具体例 | 不就労日の取扱い |
---|---|---|
①労働者に帰責性のない不就労日 |
| 「全労働日」及び「出勤日」双方から除外し、出勤率の算定に含めない。 |
②使用者側の強い帰責性による不就労日 |
| 出勤率の算定から除外せず、「全労働日」に含めた上で、「出勤日」として算定する。 |
③労働者の法律上の権利行使による不就労日 |
|
Q.7 休業と有給休暇の関係
昨今のCOVID-19禍において、政府による緊急事態宣言に伴い、会社は休業措置をとることになりました。
ただ、この休業決定より前に、従業員から休業期間中のある1日について、有給休暇の時季指定を受けていました。
同日は休業期間に含まれることになったため、時季変更をすべきですか?
A.7
すでにされた時季指定については特別な対応をする必要はなく、有給休暇を取得したものとして取り扱うことになります
また、時季変更権を行使することはできません。
使用者による休業決定は、「休業期間中の労務提供の受領拒絶の表明」になります。
その決定により休業期間中の所定労働日における労働者の労務提供義務が消滅するわけではありません。
労務提供義務は、休業期間中の所定労働日が到来し、その所定労働日において使用者が予定通り受領拒絶することにより履行不能となります。
そのため、休業決定がなされたとしても、休業期間中の所定労働日が現実に到来するまで、労働者は有給休暇の時季指定権を行使することができます。
よって、すでにされた時季指定については特別な対応をする必要はなく、通常とおり有給休暇を取得したものとして扱います。
ただし、会社が休業すると分かったため、労働者から請求していた有給休暇を休業に変更して欲しいとの要望があった場合には、休業扱いとすべきであると考えられます。
また、休業期間中は、事業が停止している以上、「事業の正常な運営が妨げられる」ことが想定できないため、時季変更権を行使することができません。
Q.8 有給休暇の付与の方法
有給休暇の付与の方法として、1日ではなく、半日や時間単位で取得させることはできますか?
A.8
有給休暇は1労働日単位(暦日)で付与することが原則ですが、場合によっては半日単位や時間単位で付与することも可能です。
また、計画的に取得日を定めて有給休暇を与えることも可能です。
【参考】
種類 | 内容 | 労使規定 |
---|---|---|
計画年休 |
| 必要 |
半日単位年休 |
| 不要 |
時間単位年休 |
| 必要 |
特別休暇 |
| 不要 |
新型コロナウイルスの蔓延は、現代の私たちが体験したことのない日常へと変貌させてしまい、それによって労働現場でも多くの混乱が生じました。
ただ、そのような未体験の世界においても、労働基準法に違反をしてしまった場合には、罰則が科されてしまう可能性があります。
使用者の方々としては収束の兆しが見えず大変な状況かと思います。
しかし、有給休暇の取扱い以外にも労働基準法等の法律違反となってしまわないよう注意してください。
他方、労働者の方々としては、新型コロナウイルスの蔓延を理由に、労働者としての権利が不当に制約されることが正当化されるわけではないことは覚えておいてください。
次回のPart3では、2019年4月1日から施行されている、使用者の年5日の有給休暇付与義務をめぐる問題について解説していきます。
【参考文献】