有給休暇Q&AのPart3では、2019年4月1日から施行されている、使用者の年休付与義務にまつわる問題について解説します。
この年休付与義務は全企業を対象としているばかりか、違反している場合には罰則規定も設けられているため、労働現場への影響は大きいことかと思われます。
まだ対応しきれていない使用者の方は、これをご参考いただければと思います。
Q.9 有給休暇の利用目的
2019年4月1日から、使用者には労働者に年5日の有給休暇を付与する義務があると聞きました。
私の会社は従業員5名の小さな町工場です。このような取扱いをしている余裕はありません。
この年5日の年休付与義務は大企業だけに適用され、私の町工場のような中小企業には適用されませんよね?
A.9
企業規模にかかわらず、すべての企業に適用されます。
働き方改革により、2019年4月1日から、有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、使用者は基準日から1年以内の期間に年5日の有給休暇を付与しなければならないことが義務化されました(年休付与義務)。
この年休付与義務については、中小企業への適用除外や、適用猶予措置などはなく、企業規模にかかわらずすべての企業に適用されます。
そのため、中小企業であっても年休付与義務に違反している場合には、労働者1人につき、30万円以下の罰金が科せられます。
Q.10 使用者の年休付与義務の方法
年5日の年休付与義務があることは分かりました。
ただ、義務はあったとしても人手が必要な繁忙期には働いてほしいため、比較的余裕のある10月頃にまとめて5日付与したいです。
使用者の時季指定は、使用者が好きな時季を指定すれば大丈夫ですか?
A.10
時季指定をする際、あらかじめ労働者の意見を聴き、これを尊重するよう努めなければなりません。
使用者は労働者に対して、時季を定めて有給休暇を与えるに当たっては、あらかじめ対象となる労働者にその時季について意見を聴かなければなりません。
かつ、使用者はその意見を尊重するよう努めなければなりません(労基法施行規則24条の6)。
そのため、使用者が一方的に任意の時季を指定できるわけではありません。
Q.11 年休付与義務の対象となる労働者
正社員ではなく、所定労働日数が少ないパートタイム労働者など有給休暇が比例付与される労働者についてですが、前年度の繰り越し分と当年度の有給休暇を合算すると10日以上となる場合には、年休付与義務の対象となりますか?
また、法定の有給休暇の付与日数が10日には満たないものの、会社の特別な措置として法を上回る有給休暇が付与されている場合にも義務がありますか?
A.11
いずれの場合にも、法定の付与日数が10日に満たないため、年休付与義務の対象にはなりません。
年休付与義務の対象となるのは、法定の年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に限られます(労基法39条7項)。
したがって、パートタイム労働者や有期契約労働者であっても、10日以上の有給休暇が付与されていれば対象となります。
ただし、年休付与義務は、基準日に付与される有給休暇の日数が10日以上である労働者を対象としたものであるため、前年度繰越分を合算すると10日以上となる労働者は対象となりません。
また、会社独自の休暇制度の日数を合算すると10日以上となる場合についても、法定の有給休暇付与日数は10日に満たないため、対象とはなりません。
Q.12 年休付与義務と前年度から繰り越された有給
前年度からの繰り越し分の有給休暇が取得された場合、その日数分を使用者が付与しなければならない年5日の有給休暇から控除することはできますか?
A.12
前年度から繰り越した有給休暇でも年5日から控除することは可能です。
年5日の年休付与義務において、労働者が実際に取得した有給休暇が前年度からの繰り越し分の有給休暇であるか、当年度の基準日に付与された有給休暇であるかについては問われません。
そのため、前年度の繰り越し分の有給休暇を、年休付与義務の年5日から控除することも可能です。
Q.13 年休付与義務の罰則規定
私が経営している会社は、COVID-19による政府の緊急事態宣言のため、ほとんど休業している状態でした。先日、緊急事態宣言が解除されてようやく営業が再開できることになりました。
そのような中、ずっと仕事をしたくてうずうずしていたのか、ある1人の従業員が、年5日の有給休暇を付与しても実際には休まず、会社に出社して自発的に働いています。
経営者の私として喜ばしい限りですが、このような場合でも、年休付与義務違反として罰則が科されてしまうのですか?
また、たった1人でも、違反した場合は罰則が科されますか?
A.13
労働者が実際に有給休暇を取得しなければ、罰則の対象となります。
また、年5日の取得ができなかった労働者が1人でもいた場合には、罰則の対象です。
年休付与義務は、使用者が年5日分の有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に5日間取得していなければ、法違反として罰則の対象となります。
これは、労働者が使用者の時季指定に従わず、自らの判断で出勤し、使用者がその労働を受領した場合にも、有給休暇を取得したことにはならないため、法違反となります。
また、法違反となる労働者が1人でもいる場合には、30万円以下の罰金対象となります。
ただし、実務的には、罰則の適用の前に、まずは労働基準監督署による監督指導が行われます。
その上で、法違反が認められる場合には、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていく運用となるかと思われます。
【有給休暇に関する罰則規定】
違反条項 | 違反内容 | 罰則規定 | 罰則内容 |
---|---|---|---|
労働基準法 第39条7項 |
年5日の有給休暇を取得させなかった場合 | 労働基準法 第120条 |
30万円以下の罰金 |
労働基準法 第89条 |
使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合 | 労働基準法 第120条 |
30万円以下の罰金 |
労働基準法 第39条 ※7項を除く |
労働者が請求する時季に所定の有給休暇を与えなかった場合 | 労働基準法 第119条 |
6か月以下の懲役 または 30万円以下の罰金 |
以上のように、使用者の年休付与義務については、違反した場合には30万円以下の罰金対象とされています。
もっとも、違反した場合に直ちに罰金が科されるという運用ではなく、まずは労働基準監督署による監督指導がなされるかと思われます。
ただ、労働基準監督署に目を付けられてしまうと、そこから派生して他の労働問題についても、厳しい監督指導がなされてしまう可能性があります。
少しでもそのリスクを減らすべく、年休付与義務について適切な対応を心がけましょう。
【参考文献】