4回にわたって解説してきた有給休暇Q&AもPart4になりました。
ラストとなる今回は、有給休暇の繰り越しや、退職者の有給休暇について解説していきます。
労働者が退職する際には、未消化の有給休暇を使用することが多いかと思います。
退職者にも有給休暇を付与しなければならないのか、
また有給休暇を買い取りすることができるのかなどの問題があります。
Q.14 欠勤日の有給振替
ある朝、従業員から、
「子どもが急に熱を出してしまったため欠勤します」
との連絡を受けました。
普段からよく働いてくれている従業員のため、
そのまま欠勤扱いとするのではなく、会社の判断で有給休暇に振り替えることにしました。
このように、欠勤日を事後的に有給休暇に振り替えることは可能でしょうか?
A.14
労働者から申し出があった場合には可能です。
有給休暇の取得は、労働者がその始期と終期を指定し、使用者が適法な時季変更権を行使しないことにより、確定的に効果が発生します。
そのため、事後的に有給休暇を指定することは通常はできません。
労働者から事後に有給休暇への振替申請があった場合には、使用者がこれを拒否しても労基法違反とはなりません。
ただ、この労働者の申請を使用者が有給休暇として認めることは自由です
もっとも、労働者からの申請がないのに、使用者が勝手に欠勤日を有給休暇に振り替えることはできません。
Q.15 有給休暇の繰り越し
私は3年で1万時間働くことを目標としています。
有給休暇といえども、休んでいる暇なんて私にはありません。
そのため、去年も有給休暇は年休付与義務がある年5日しか使いませんでした。
…ただ最近、仕事に追われる日々に疑問を持つようになりました。
一度、有給休暇を使って、山籠もりでもしながら、今後の人生について考えたいと思います。
そこで質問ですが、去年取得しなかった有給休暇は、今年度に繰り越して取得することはできますか?
A.15
有給休暇は、2年の消滅時効にかかるまで存続し、翌年に繰り越すことができます。
有給休暇は、労働基準法115条の「この法律の規定による・・・その他の請求権」に当たるため、権利を行使できる時から2年間行使しない場合には、時効によって消滅します。
そのため、2年の消滅時効にかかるまでは存続し、繰り越されることになります。
Q.16 有給休暇の繰り越しの禁止規定
未消化の有給休暇は時効消滅するまで翌年に繰り越されると聞きました。
今までほとんど有給休暇を使わず、よく働いていたある労働者が、
「繰り越している有給休暇を使って山籠りに行きたい」
できることなら、今までとおり働いてくれると会社としては助かります。
そこで、就業規則で翌年度への繰り越しを禁止する規定を設けることはできますか?
A.16
有給休暇の繰り越しを禁止する旨の規定は、法律上無効となります。
有給休暇は2年の消滅時効にかかるため(労働基準法115条)、翌年度に繰り越すことができます。
しかし、「有給休暇の繰り越しを一切認めない」などの、労働基準法115条の適用を排除するような趣旨の就業規則の定めは、法律上無効であると考えられます。
そのため、このような就業規則を理由に有給休暇の取得を拒否した場合には、労働基準法39条違反となります。
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働基準法119条)。
Q.17 有給休暇の買い上げ
山籠りに行ってきた労働者が、一念発起して冒険者になるため、会社を退職することになりました。
会社としては退職してしまうのは残念ではありますが、今までよく働いてくれたため、お礼として退職時に未消化の有給休暇を買い上げようと思います。
そこで労働者に年休手当などの金銭を支払うことで、未消化の有給休暇の日数を買い上げることは可能でしょうか?
また、労働者から「有給休暇を買い取ってほしい」との申し出があった場合、使用者は買い取りに応じる義務があるのでしょうか?
A.17
使用者が一方的に労働者の有給休暇を買い上げることはできません。
また、労働者から
「有給休暇を買い取ってほしい」
と申し出があっても、使用者はこれに応じる義務はありません。
労働者に有給休暇を与えた趣旨は、
現実に労働者に休みを与えて、
健康の確保や、家庭生活と社会生活のバランスを図る
点にあります。
の趣旨から、有給休暇は現実に取得されるべき(実際に労働者が仕事を休むべき)であり、これを金銭で買い上げることは、労働基準法39条の趣旨に反するため、違法であるといえます。
そのため、使用者が一方的に有給休暇を買い上げることは違法になります。
また労働者から有給休暇の買い取りの申し出があっても、使用者はこれに応じる義務はありません。
もっとも、次のような場合には、例外的に有給休暇の買い上げも認められると考えられています。
【有給休暇の買い上げに関する例外】
①法定外年休の買い上げ | 法定外年休は、労基法上の権利ではなく、
労使間の契約により認められるものです。 ↓ 就業規則、労働協約などで、法定外年休の買い上げを認める規定がある場合には、法定外年休の買い上げは適法です。 |
②時効消滅した年休の買い上げ | 年休は2年の消滅時効にかかりますが、時効により消滅した年休権を買い上げたとしても、労働者の年休権を阻害することにはならず、一般的には適法であると考えられています。 ※このような取扱いが容認されると、事後的に買い上げを受けることを期待して、労働者が現実の年休取得を控える行動に出ることが考えられます。 そうなれば、年休制度の趣旨に反する事態を招くおそれがあります。 そのため、事前・事後を問わず、未消化の年休に対して使用者が金銭を支払うことは、原則として労基法39条に違反し無効であるとする見解もあります。 |
③退職により消滅した年休の買い上げ | 労働者が退職し、労働契約が終了した場合には、労働者の年休権は消滅します。 ↓ 退職により消滅する年休権を使用者が買い上げたとしても、労働者の年休権を阻害することにはならず、適法であるといえます。 |
Q.18 退職予定者からの有給休暇の請求
退職して冒険家になる労働者から、
「いろいろ準備をするために、退職予定日までの期間を有給休暇としたい」
との請求がありました。
ただ、その労働者にはこれまで重要な役割を担ってもらってきたため、できることなら退職日まで出勤して引き継ぎ作業をしてもらいたいです。
そこで、退職予定日までの期間について有給休暇を与えなければなりませんか?
A.18
労働者から申し出があった場合には可能です。
退職予定の労働者から請求があった場合には、有給休暇を与えなければなりません。
有給休暇は、労働者がその全部を行使する前に解雇あるいは退職する場合には、その効力が発生するまでの間に行使しない限り、消滅すると解されています。
しかし、解雇あるいは退職の効力が発生するまでの間は、有給休暇を当然行使することができます。
よって、退職予定者や解雇予告期間中の労働者から請求があった場合でも、有給休暇は与えなければなりません。
また、時季変更については、解雇日または退職日までの範囲内でしか行うことはできず、それを越えての時季変更はできません。
つまり、退職予定日まで14日しかなく、14日間の有給休暇の請求がされた場合には、これを拒否することはできません。
有給休暇Q&Aも今回でラストとなりました。
ただ、これまでに解説してきた問題以外にも、有給休暇に関しては様々な問題が生じています。
弊所の代表弁護士・浅野は、35年に渡る豊富な経験と知識を有し、企業の労務問題についても精通しています。
また、弊所には弁護士だけでなく、社会保険労務士も在籍しております。
弁護士と社会保険労務士がチームとなり、企業の労務問題の迅速な解決に向けてサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
【参考文献】
・水町勇一郎「詳解 労働法」(東京大学出版、2019)
・労働調査会「年次有給休暇制度の解説とQ&A」(労働調査会出版局、2020)
・瓦林道広ほか「Q&A 労働時間・休日・休暇・休業トラブル予防・対応の実務と書式」(新日本法規出版、2020)
・小鍛治広道「新型コロナウイルス影響下の人事労務対応Q&A」(中央経済社、2020)
・労務トラブル総合研究会「激変時代の労務トラブルと対応例40」(労働新聞社、2021)