土地や建物、償却資産などの固定資産を所有していると、固定資産税を納めなければなりません。
財産的価値が高い資産ですので、長年にわたり相当高額な固定資産税を納めることになります。
固定資産税は地方公共団体に納付する地方税であることから、その金額は適正なものであると信頼して納税されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、実は近年、固定資産税の過払いが頻発しています。
そこで、そもそもなぜ固定資産税の過払いが発生しているのか、そして払いすぎた固定資産税をどのようにして返してもらうことができるかについて見ていきましょう。
少し古いデータにはなってしまいますが、まずはこちらをご覧ください。
総務省が平成21年~平成23年度を調査対象期間とし、市区町村に対して、固定資産税の間違いがないかを調査した結果です。
【税額修正団体】
年度 | 税額修正団体数 | 団体数割合 |
---|---|---|
平成21年度 | 1,483団体 | 93.2% |
平成22年度 | 1,485団体 | 93.3% |
平成23年度 | 1,484団体 | 93.2% |
累計 | 1,544団体 | 97.0% |
これを見ますと、驚くべきことになんと累計で97%もの市区町村に固定資産税の誤りが発見されました。
では、誤っていた固定資産税は修正されたのでしょうか?
続いてこちらをご覧ください。
【納税義務者総数に占める修正者数割合】
年度 | 土地 | 家屋 | ||
---|---|---|---|---|
修正者数/納税義務者数 | 修正割合 | 修正者数/納税義務者数 | 修正割合 | |
平成21年度 | 76,613人/28,991,554人 | 0.3% | 118,570人/32,644,343人 | 0.4% |
平成22年度 | 49,042人/29,184,470人 | 0.2% | 56,407人/32,904,180人 | 0.2% |
平成23年度 | 44,749人/29,307,753人 | 0.2% | 44,636人/33,222,534人 | 0.1% |
平均 | - | 0.2% | - | 0.2% |
【増額修正及び減額修正の割合】
年度 | 土地 | 家屋 | ||
---|---|---|---|---|
増額修正 | 減額修正 | 増額修正 | 減額修正 | |
平成21年度 | 27.5% | 72.5% | 28.7% | 71.3% |
平成22年度 | 29.2% | 70.8% | 44.3% | 55.7% |
平成23年度 | 39.4% | 60.6% | 48.4% | 51.6% |
平均 | 32.0% | 68.0% | 40.5% | 59.5% |
上記を見ますと、納税義務者総数に占める税額修正のあった人数の割合は、調査対象期間である平成21年~平成23年度の平均で、土地は0.2%、家屋は0.2%にとどまっています。
そして、税額修正のうち、約6割のものが減額修正、つまり固定資産税を払いすぎていたことになります。
このように、97%もの市区町村で固定資産税の誤りがあったにもかかわらず、実際に税額修正がされたものはその0.2%にすぎませんでした。
その他の方は誤った評価による固定資産税を納めている可能性があります。
また、2019年12月1日付の日本経済新聞では、固定資産税の過払いについて、次のような記事が掲載されました(記事要約)。
建物や土地の持ち主が支払う固定資産税で過払いが頻発している。
東京23区と全国の政令市での2018年度の払い戻しは少なくとも
14万件で合計70億円を超えた。・・・・
東京23区と20政令市の固定資産税の還付実績をまとめた。
18年度は14万4500件(件数未集計の横浜市と広島市除く)、
合計額は71億8800万円だった。ともに過去5年間で最多だ。
23区が8万4千件、44億円と断トツだった。
納税者の勘違いによる二重払いなどでの還付もあるが、行政のミスも少なくない。・・・
以上をみてみますと、近年でも誤った固定資産税の評価により、固定資産税の過払い金が発生している可能性があることが分かります。
では、そもそもなぜ固定資産税評価額の誤りが生じてしまっているのでしょうか?その原因を見ていきましょう。
平成21年~平成23年度における調査では、税額修正の要因は次のような割合でした。
【税額修正の要因】
土地 | 家屋 | |
---|---|---|
①課税・非課税認定の修正 | 7.5% | 1.4% |
②新増築家屋の未反映 | ― | 20.6% |
③家屋滅失の未反映 | ― | 23.6% |
④現況地目の修正 | 15.8% | ― |
⑤課税地積・床面積の修正 | 3.1% | 2.9% |
⑥評価額の修正 | 29.9% | 29.7% |
⑦負担調整措置・特例措置の適用の修正 | 22.9% | 1.9% |
⑧納税義務者の修正 | 15.2% | 13.4% |
⑨その他 | 5.6% | 6.4% |
なぜこのような事態が発生してしまうのかというと、不動産等の固定資産税評価額の算定を市町村の職員が行っていることも一因です。
市町村の職員は不動産等の固定資産の評価を行う専門家ではないため、固定資産税評価額を誤ってしまうことが多いのです。
それに加え、そもそも固定資産税の評価方法が複雑であることも要因として挙げられます。
では、具体的にどのような誤りがあるのでしょうか。
分かりやすく説明しますと、例えば、算定時に次のようなことが原因で、固定資産税の誤りが発生しています。
【参考例】
① 木造なのに、軽量鉄骨として誤って評価されている。
② 鉄骨造りなのに、鉄筋鉄骨造りとして誤って評価されている。
③ 店舗なのに、事務所として誤って評価されている。
④ 遊技場なのに、店舗として誤って評価されている。
⑤ そもそも非課税物件のものを誤って評価している。
⑥ 家屋構造が誤っている。
⑦ 評価替えが誤っている。
⑧ 用地認定が誤っている。
⑨ 償却資産が違っている。
先ほど見ましたとおり、固定資産税の誤りは、固定資産税評価額の付け方を間違えているケースもあれば、本来使えるはずである特例が使われていないため、固定資産税に誤りが発生しているケースもあります。
そして、固定資産税の計算をする上で、多くの方に関わりがあるものは、「住宅用地の特例」が挙げられます。
これは、所有している土地の利用用途が 住宅である場合、特例により固定資産税の大きな軽減を受けることができるという措置です。
具体的には、小規模住宅用地、一般住宅用地ごとに、評価額に次表の住宅用地特例率をかけた額を求め、その範囲内で課税標準額を算定します。
面積区分 | 固定資産税 | 都市計画税 | ||
---|---|---|---|---|
税率 | 1.4% | 0.3% | ||
住宅用地 | 小規模住宅用地 | 200㎡以下の部分 | 評価額×1/6 | 評価額×1/3 |
一般住宅用地 | 200㎡を超える部分 | 評価額×1/3 | 評価額×2/3 |
※住宅用地とは次のものをいいます。
地上階数が5階建て以上の耐火建築物である家屋の住宅用地率 | 地上階数が5階建て以上の耐火建築物である家屋以外の家屋の住宅用地率表 | ||
---|---|---|---|
居住用部分の割合 | 住宅用地率 | 居住部分の割合 | 住宅用地率 |
4分の1以上2分の1未満 | 0.5 | 4分の1以上2分の1未満 | 0.5 |
2分の1以上4分の3未満 | 0.75 | 2分の1以上 | 1.0 |
4分の3以上 | 1.0 | ― | ― |
このように、住宅用地の特例の適用の有無により、場合によっては固定資産税が6倍にもなってしまいます。
もっとも、固定資産税評価額に誤りがある場合、残念ながら基本的には勝手に改善されるわけではありません。
納税者が自分で気が付き、改善のための行動をとるしかありません。
では、過払いを防ぐためには、納税者はどのような自衛策をとればよいのでしょうか
固定資産税は、
評価額(課税標準額) × 標準税率(1.4%)
という計算により税額が決まります。
過払いがあるかどうか調べるためには、この「課税標準額」と「固定資産税評価額」を知る必要があります。
これらは、市町村の固定資産課税台帳を確認することができます。
また、固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書でも知ることができます。
この固定資産税評価額は3年ごとに見直しがされますが、市町村の職員が評価し、データを入力するため、常に正しいとは限りません。
職員の入力ミスで評価額に間違いが生じる場合もあれば、そもそも調査した職員の経験不足・力量不足により誤った評価がされることもあります。
参考までに、以下のようなケースでは、評価額に反映されていない場合があるため、注意が必要です。
【参考例】
仮に、固定資産税を払いすぎてしまった場合には、自治体に対して還付請求をすることになります。
ここで注意が必要なのは、還付の対象となる期間です。 地方税法上は、還付を受けられる期間は、過去5年分と規定されています(消滅時効、地方税法18条の3)。
そのため、固定資産税の過払いは、基本的に5年分しか請求できません。
もっとも、平成22年6月3日、最高裁判所は次のとおり、 「固定資産税の評価・課税誤りによる税額について国家賠償の請求を認める」との判決を下しました(判旨要約)。
公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。
この判決は名古屋高等裁判所への差し戻し判決ではありますが、事実上の最高裁判所の損害賠償請求認容判決と受け止められています。
この判決によると、一定の要件の下では、地方税法上の審査請求や取消訴訟を経ることなく、国家賠償請求を行うことができ、固定資産税の過払いの返還期間は最長20年となります(民法724条)。
この20年という期間の起算点は、当該年度の固定資産税等に係る不可決定がされ、所有者に納税通知書が交付された時から進行します(最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁)。
固定資産税を自治体から課されるままに支払っている方が多いかと思います。
しかし、あなたが支払い続けている固定資産税は本来、支払う必要がないものかもしれません。
ただし、固定資産税の過払いが発生していても、基本的には自治体が改善してはくれず、自分で気づき、行動しなければなりません。
固定資産税の過払いには5年という消滅時効がある以上、おかしいと感じたならばすぐにでも専門家に相談することをお勧めします。
弊所の代表弁護士浅野了一は、35年にも渡る豊富な弁護士経験に裏付けられた確かな知識と、税理士登録もしており、法律だけでなく固定資産税等、税法についても精通しております。
その確かな知識、優れた洞察力・判断力によって的確にサポートをさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。