名古屋・金山の弁護士法人名古屋総合法律事務所金山駅前事務所へ 
相続相続税, 離婚, 交通事故, 債務整理, 不動産, 中小企業の6分野に専門特化

そのタイムカード、本当に捨てて大丈夫??

過去のタイムカード、捨てていませんか?

事業主の方々は、雇用している労働者の勤務時間の管理について、タイムカードを使用されていることが多いかと思います。

労働者の人数が多いとその分、タイムカードはかなりの量になります。紙媒体ですと保存にも場所を取ることかと思います。

千円札

そのため、

  • すでに給料はきっちり支払っているから
  • もう退職している労働者のものだから

などといった理由でタイムカードを捨ててしまってはいませんか?

実は、タイムカードには保存期間が定められています。

さらに、労働基準法の改正により、令和2年4月1日からその保存期間が延長されることになりました。

ここでは、タイムカード等の労働関係書類の保存期間や、これに関連する労働者の賃金請求権の時効期間について見ていきましょう。

民法改正に伴い、「賃金請求権の消滅時効」の期間が延長されました

ご存じの方も多いかと思いますが、令和2年4月1日から民法(債権法の一部)が改正されました。

これより、「賃金等請求権の消滅時効」が改正されました。

弁護士

まず、改正前民法は次のとおり規定されていました。

改正前

【改正前民法 第174条】
次に掲げる債権は、1年間行使しないときは、消滅する。
1号月又はこれより短い期間によって定めた使用人の給料に係る債権
2号自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代かに係る債権
3号運送賃に係る債権
4号旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
5号動産の損料に係る債権

このように、改正前民法では、賃金等請求権は「1年の短期消滅時効により消滅する」と規定されていました。

オフィスの女性たち

一方で、労働者にとって重要な「賃金等請求権」が1年で消滅してしまうのは保護にかけるとして、特別法である「労働基準法」は、次のとおり、消滅時効を2年と規定していました。

【改正前労働基準法 第115条】
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

改正後

しかし、 民法改正によって、短期消滅時効は廃止されました。

令和2年4月1日以後になされた契約に基づく債権については

1号権利を行使することができることを知った時から5年
2号権利を行使することができる時から10年間

行使しないときには、時効により消滅することになりました。

(改正民法第166条1項)

机とレザーのチェア

そしてこれに伴い、労働基準法第115条の賃金等請求権の消滅時効についても、その起算点が賃金支払日であることが明確化されるとともに、次のとおり5年に延長されました(ただし、起算日は従来の取り扱いからの変更はありません)

【改正後労働基準法 第115条】
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使できる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

まとめると、次の表のとおりになります。

改正前改正後
民法1年の短期消滅時効 廃止
労働基準法賃金請求権の消滅時効期間/2年
退職手当請求権の消滅時効期間/5年
5年に延長
5年のまま変更なし

労働基準法第115条の対象となる債権改正時効期間
①賃金の請求権(退職金を除く。)
Ex.金品の返還(賃金の請求に限る)、賃金の支払、非常時払、休業手当、出来高払制の保障給、未成年者の賃金請求権、年次有給休暇中の賃金、時間外・休日労働等に対する割増賃金、
5年
②災害補償の請求権
Ex.療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、分割保障
2年
③その他の請求権
Ex.帰郷旅費、退職時の証明、金品の返還(賃金を除く。)、年次有給休暇請求権
2年
④退職手当の請求権
(労働協約又は就業規則によりあらかじめ支給条件が明確にされている場合)
5年

もっとも、すぐに改正法が適用されると労働現場に混乱が生じるおそれがあるため、当分の間は経過措置として3年の消滅時効が適用されます。

新しい消滅時効期間は、改正法の施行日令和2年4月1日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について適用されます。

出勤簿等の保存期間も延長されました。

次に、「賃金等請求権の消滅時効の改正」に伴い、「出勤簿等の記録の保存期間」も延長されました。

ペンを持つ男性

まず、改正前の労働基準法では、次のとおり、労働関係に関する重要な書類については3年間の保存義務がありました。

【改正前労働基準法 第109条】
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。

これは、労働者の権利関係、労働関係に関する紛争を解決するため、また監督上の必要性から、その証拠を保全する意味で保存義務が設けられていました。

今回の労働基準法の改正により、この保存期間が5年間に延長されることとなりました。

【改正後労働基準法 第109条】
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。

ただし、この保存義務も同様に、当分の間は経過措置として保存期間は3年間とされています。

勤務中の女性

まとめると、5年間の保存義務の対象およびその起算日(施行規則56条)は次のとおりになります。

項目保存期間の起算日
①労働者名簿労働者の死亡、退職又は解雇の日
②賃金台帳最後の記入をした日
③雇入れに関する書類
Ex.雇入決定関係書類、契約書、
労働条件通知書、履歴書等
労働者の退職又は死亡の日
④解雇に関する書類
Ex.解雇決定関係書類、
予告手当または退職手当の領収書等
⑤災害補償に関する書類
Ex.診断書、補償の支払、領収関係書類等
災害補償を終わった日
⑥賃金に関する書類
Ex.賃金決定関係書類、
昇給減給関係書類等
その完結の日
⑦その他の労働関係に関する重要な書類
Ex.出勤簿、タイムカードなどの記録、
労使協定の協定書、各種許認可等
⑧労働基準法施行規則・労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記録
※②⑥⑦の記録に関する賃金の支払期日が記録の完結の日などより遅い場合には、 当該支払期日が記録の保存期間の起算日となることを明確化された。

このうち、⑦その他の労働関係に関する重要な書類については、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類も該当します。

これらについては、

  • 使用者自ら始業・終業時刻を記録したもの
  • タイムカード等の労働時間の記録
  • 残業命令書およびその報告書
  • 労働者が自ら労働時間を記録した報告書(入退場記録)

などが含まれます。

この保存義務を怠ってしまった使用者は、30万円以下の罰金に処されてしまうため注意が必要です(労働基準法第120条)

パソコンで保存する場合の注意点

このように、出勤簿等は5年間の保存義務があります。

その記録は膨大な量となり、また近年はペーパーレス化が進んでいることから、電子データで保存している企業も多いことかと思います。

ノートパソコン

この場合、記録を紙媒体で保存しなければならないのか、電子記録媒体で保存してもよいのかについて、労働基準法では明確に規定されていないため、問題となり得ます。

以下の点、

1画像情報の安全性が確保されていること
2画像情報を正確に記録し、かつ、長期間にわたって復元できること
3労働基準監督官の臨検時等、保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていること

等の要件のいずれをも満たすときは保存義務に違反しないとされています。

また、記録の電子データ化や保存に向けて、労務管理用ソフトウェアや労務管理用機器等の導入や更新を行う場合には、「働き方改革推進支援助成金」を活用することができます。

まとめ

以上のとおり、企業が労働者との間で作成する書類については、労働基準法上、保存義務が課されています。

これに違反した場合には罰則が規定されています。

並び立つ3人

また使用者側の観点からは、これらの書類は、労働者とのトラブルを防止するための重要なものとなります。

そのため、使用者の方々は現在の保存状況や、今後の保存方法を一度確認してみることをお勧めします。