従業員に会社の企業秘密を持ち出されてしまいました。- 名古屋市金山駅前の弁護士 相続,離婚,交通事故,債務整理専門特化 | 愛知県

従業員に会社の企業秘密を持ち出されてしまいました。

事例の概要

  • 請求の内容:企業秘密の漏洩防止
  • 請求相手:元従業員

ご相談者様の状況

X社(製造業)

1. 相談内容

X社は、乾燥ネギフレークを製造している会社です。乾燥ネギフレークは、X社独自の方法により製造されており、その製造方法は一般に公開しておらず、X社の従業員しか知ることができません。

令和3年1月に、X社は製造ライン拡充のため、従業員Yを6か月の試用期間で中途採用しました。
その従業員Yは、食品加工会社での勤務経験があり、本人も食品加工を熟知しているとのことでしたので、その経験・技術に期待して、乾燥ネギフレーク製造の技術職として採用しました。

しかし、勤務を開始してみると、その従業員Yはまったく食品加工技術がなく、乾燥ネギフレークの製造にも何度も失敗しており、採用時に期待して技術水準には到底及びませんでした。

そのため、X社は試用期間満了の1ヵ月前に、試用期間の満了により解雇すると通告し、Yも合意していました。

ところが、後日、X社の社長がパソコンの監視ソフトを見てみると、従業員Yは解雇を告げられた当日に(解雇の効力発生前)、貸与されていたデスクトップパソコンに保存されていた乾燥ネギフレークの製造方法を、自分のUSBにコピー・保存して持ち出していることが判明しました。

乾燥ネギフレークの製造方法はX社の重要な企業秘密であるため、どうにかして企業秘密の漏洩を防ぎたいとのことで、弊所にご相談にいらっしゃいました。

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2. 解決の提案

まず、従業員Yは試用期間の満了によって普通解雇するとのことでしたので、その解雇は有効であるのか、解雇の効力が問題となります。

一般に解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合には許されることになります(解雇権濫用法理)。

試用期間中の雇用契約は、実務上、解約留保権付雇用契約であるとされており、留保された解約権の行使による解雇は、通常の解雇より緩やかに正当性が判断されます。

また、技術者など、高度の技術、能力を評価されて特定の職務のために即戦力として採用された場合には、採用時に期待された技術・能力を有していなかったとき、比較的容易に解雇が認められます。

従業員Yは、食品加工会社での勤務経験と、食品加工の経験・技術を評価されて、乾燥ネギフレーク製造の技術職として採用されました。
しかしながら、X社が期待していた技術水準に到底及ばず、商品にならないものしか製造できず、また、何度も指導を試みても改善が認められませんでした。

そこで、試用期間満了により、解雇予告手当を支払った上で従業員Yを解雇することは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合に当たるとして有効であると思われました。

次に、本題である従業員Yによる企業秘密の漏洩についてどのように対応すべきか問題となります。

従業員に企業秘密を持ち出された場合の対応として、大きく、

  • ㋐ 不正競争防止法に基づく対応(差止請求、損害賠償請求、刑事罰)
  • ㋑ 債務不履行に基づく損害賠償請求・差止請求
  • ㋒ 刑法による刑事責任(窃盗罪・業務上横領罪)

が考えられます。

この点、㋐不正競争防止法が適用されるためには、「営業秘密」(不正競争2条6項)に該当しなければなりません。

① 秘密管理性
  • 会社の秘密管理意思が秘密管理措置により従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保されている必要がある。
  • 単に営業秘密の保有者が秘密とする意思だけでは不十分であり、客観的に秘密であることが必要となる。
    →秘密管理措置=営業秘密である情報と営業秘密でない情報を合理的に区分することと、当該情報が営業秘密であることを明らかにする措置。
    Ex.マル秘、電子ファイルにパスワードを付ける
② 有用性
  • 当該情報を秘密として自らが専有することにより、経済活動の中で有利な地位を占め、収益を上げることを可能とする利益があること。
    →当該情報により、財・サービスの生産・販売、研究開発、費用の節約、経営効率の改善などの現在又は将来の経済活動に役立てることができるもの。
③ 非公知性
  • 不特定の者が公然と(不正な手段によらずして)知り得る状態にないこと。

X社における乾燥ネギフレークの製造方法は、上記②③は満たしていましたが、パスワードがかけられていたりしておらず、従業員であれば誰でも閲覧することが可能でした。

そのため、①秘密管理性を欠くと思われ、㋐不正競争防止法による対応は難しいものと考えられました。

また、従業員Yは、製造方法に関する電子データを、自己のUSBに保存して持ち出していたため、有体物を対象とする㋒窃盗罪や業務上横領罪が適用されることは難しいと思われました。

そのため、㋑労働契約上の付随義務として負っている秘密保持義務の債務不履行責任に基づき対応していくこととなりました。

ただ、X社としては、従業員Yにすぐに損害賠償請求をするのではなく、ひとまずはこれ以上、従業員Yからの企業秘密の漏洩を防ぎたいとの意向がありました。

そこで、従業員Yから企業秘密を保存したUSBを提出させデータを消去すること、さらに、退職後においても秘密保持義務を負うこと、仮に違反した場合には損害賠償を負うこと等を定めた「秘密保持に関する誓約書」を取り交わすことを目標として、従業員Yに請求することになりました。

悩む女性

3. 解決の結果

交渉の結果、従業員Yから企業秘密を保存したUSBの提出を受け、USB内の企業秘密をすべて消去した後、返却しました。

また、従業員Yとの間で、X社の退職後においても、X社において知り得た企業秘密を自己のために使用、あるいは方法の如何を問わず第三者に開示又は漏洩しないこと、仮に違反した場合には損害賠償として500万円を支払うこと等を内容とする「秘密保持に関する誓約書」を取り交わしました。

これらは、ご依頼を受けてから1ヵ月以内にすることができました。

4. 所感

X社のケースでは、不正競争防止法が適用される可能性が低かったため、なかなか対応が難しい事案でした。

企業秘密は、持ち出された瞬間から第三者に漏洩されるリスクがあるため、早期に対応しなければなりませんが、本件ではご依頼をうけてから1ヵ月以内にUSBの返却と「秘密保持に関する誓約書」を取り交わすことができました。

1度持ち出されてしまった企業秘密をどこまで追求することができるのか、難しいところではありますが、ひとまず企業秘密を保存したUSBを提出させ、
その上で500万円の損害賠償を定めた「秘密保持に関する誓約書」を取り交わすことができたのは、従業員Yからさらに企業秘密が漏洩することへの予防策として効果があると思われます。

ただ、まずは企業秘密を持ち出されないための秘密管理体制が重要であるかと思われます。

5. 受任から解決に要した期間

2か月