遺産分割終了後、知らなかった土地の相続破棄を行った事例- 名古屋市金山駅前の弁護士 相続,離婚,交通事故,債務整理専門特化 | 愛知県

遺産分割終了後、知らなかった土地の相続破棄を行った事例

ご相談者様の状況

相続関係図

  • 相談者:Aさん
  • 被相続人:Aさんの祖母

事案の概要

Aさんは、市税事務所の通知により、 約40年前に亡くなっている祖母の名義の土地があること及びその土地の固定資産税及び都市計画税の滞納があることを知りました。Aさんは、その土地を取得したくなかったため、 相続放棄をしたいと思いましたが、祖母が亡くなったことは、母親もAさんも約40年前に知っていたことから、相続放棄ができるのか疑問に思い、当事務所に相談にいらっしゃいました。

解決までの道のり

① まず、母親もAさんも、祖母が亡くなったことを約40年前に知っている場合に、相続放棄ができるかが問題となりました。

民法によれば、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」(民法915条1項)とされ、 「相続人が、相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」(民法916条)ことになっています。

しかし、本件では、母親もAさんも、祖母が亡くなったことを約40年前に知っているため、民法の規定を形式的に適用すると相続放棄の熟慮期間を過ぎており、相続放棄ができないことになってしまいます。

もっとも、裁判所は、民法915条1項及び同法916条の規定を形式的に満たさない場合でも、相続人の相続放棄を認めないことが妥当でないと考えられるような例外的な事情があれば 、相続放棄をすることを認めていますので、裁判例を踏まえて、相続放棄が認められるかどうかを検討することが必要になります。

民法915条1項の相続放棄の熟慮期間の起算点について、最高裁は、「相続人は、相続開始後すぐに相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合であっても、 3ヶ月以内に相続放棄しなかったのが、被相続人に全く相続財産がないと信じたためであり、被相続人との生活歴や交際状態等からみて相続人に相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があっ て、相続人がそう信ずるについて相当な理由があると認められる時は、熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」と判示しました (最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。

そのため、まずは、母親が相続放棄をしなかったのは、被相続人である祖母に全く相続財産がないと信じたためであり、信じたことについて相当な理由があることから、相続放棄の熟慮期間が過ぎておらず 、母親が、祖母の相続の承認又は放棄をしないで死亡したという説明を上申書に記載しました。

そして、民法916条の相続放棄の熟慮期間の起算点について、最高裁は、「相続の承認や放棄をしないで死亡した者の相続人は、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続に おける相続人としての地位を、自己が承継した事実を知ったとき」と判示しています(最判令和元年8月9日判タ1474号5頁)。さらに、その後、東京地裁は、再転相続した相続人が相続の承認又 は放棄をしないで死亡した者からの相続により、当該死亡したものが承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った場合であっても、再転相続人が同事実を 知った時から3か月以内に限定承認又は放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、信じたことについて相当の理由がある場合には、熟慮期間は相続人が相続 財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識いうべき時から、起算すべきものとするのが相当であると判示しました(東京地判令和元年9月5日判時2461号14頁)。

そのため、Aさんが相続放棄をしなかったのは、被相続人である祖母に全く相続財産がないと信じたためであり、信じたことについて相当な理由があること及び市税事務所の通知を見て 、祖母に相続財産があることを初めて知り、知ったときから3か月以内に相続放棄の申述をしていることを上申書に記載しました。

② 次に、被相続人の最後の住所地が不明のため、どこの裁判所に相続放棄を申述するかが問題となりました。

被相続人である祖母が、約40年前に亡くなっており、戸籍の附票の写しの保管期間が過ぎていたため、取得ができず、最後の住所地が不明でしたので、 どこの裁判所に相続放棄を申述するかが問題となりました。

この点は、家事事件手続法第7条により、最後の住所地等が不明の場合、審判を求める事項に係る財産の所在地を管轄する裁判所に管轄があり、 市税事務所の通知に土地の所在地の記載があったため、土地の所在地を管轄する裁判所に、相続放棄の申述をすることができました。

以上の内容を踏まえて、相続放棄の申述をしたところ、無事に相続放棄の申述が受理されて、解決をすることができました。

所感

被相続人が、亡くなったことを知ってから3か月を過ぎてしまっている場合には、原則として、相続放棄ができないため、例外的に、相続放棄ができるかどうかを検討することが必要になります。

今回は、祖母の相続と母親の相続の二つの視点から相続放棄ができるのかを検討をする必要がありましたが、裁判所に、相続放棄の申述が認められるべき理由を丁寧に説明することで、相続放棄が無事に受理されました。

亡くなったことを知ってから3か月を過ぎてしまっている場合には、過去の裁判例を踏まえて、相続放棄ができるかどうかを検討しないといけませんので、弁護士に相談することをおすすめします。

解決までに要した期間

3か月