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Q1.
父が亡くなった後、母から父には隠し子がいることを聞かされました。
戸籍を取り寄せて確認しましたが、認知はしていないようです。
隠し子には相続権があるのでしょうか?
また、もしその隠し子から相続分の請求があった場合は、どうしたらいいでしょうか?

認知されていない隠し子に相続権はありません。もし、その隠し子から相続分の請求があっても、基本的に遺産を渡す必要はありません。ただし、場合によっては隠し子に相続権が発生するケースもありますので、以下で詳しく解説します。

隠し子に相続権はあるの?

親が亡くなった後、隠し子がいることが判明して相続トラブルが発生することがあります。それまで面識がまったくなかった隠し子から相続分を請求されたとき、遺産を渡したくないと考えるのも無理はありません。

隠し子にも実子と同じように相続権があるのでしょうか。

相続権が認められる「子」とは

民法上、被相続人(亡くなった方)の子には相続権が認められています(同法第887条1項)。

ここにいう「子」とは、被相続人と法律上の親子関係が認められる子どものことをいいます。具体的には、次の2つのケースが挙げられます。

  • 嫡出子
  • 認知された非嫡出子

嫡出子とは、婚姻中の夫婦の間に生まれた子のことです。ただし、妻が婚姻中に妊娠した子や、婚姻後200日以上が経過した後に生まれた子、離婚後300日以内に生まれた子も嫡出子と推定されます(同法第772条)。「推定する」というのは、裁判で反証されない限りはそのとおりの事実として取り扱うという意味です。

認知されていない非嫡出子には被相続人との法律上の親子関係は認められません。

以上のことを前提として、隠し子に相続権があるかどうかをみていきましょう。

嫡出子には相続権がある

まず、隠し子が被相続人の嫡出子であれば、相続権が認められます。

例えば、父が母と結婚する前に別の女性と結婚していたとしましょう。その女性との婚姻中に子どもが生まれていれば、その子は嫡出子となります。その後に父が離婚して母と再婚し、さらに子どもをもうけて家庭を持ったとしても、その子は嫡出子のままです。

父の前婚での子を「隠し子」と呼ぶことは少ないかもしれませんが、このパターンで相続トラブルが発生するケースは少なくありません。

認知された子にも相続権がある

非嫡出子であっても、父が生前に認知していた隠し子には相続権があります。

認知とは、婚姻中の夫婦でない男女間に生まれた子どもについて、父が血縁上の親子関係を認めることをいいます。

認知すると、その子の出生時に遡って法律上の親子関係が生じますので(民法第784条)、父が亡くなれば相続権が認められるのです。

認知されていない非嫡出子に相続権はない

認知されていない非嫡出子には父との法律上の親子関係が認められませんので、相続権はありません。

したがって、ご相談のケースでは、隠し子から相続分を請求されても原則として遺産を渡す必要はありません。

死後認知で相続権が発生することもある!

認知されていない隠し子(非嫡出子)でも、死後認知によって相続権が発生することもあるので注意が必要です。

死後認知とは

死後認知とは、父の死後に非嫡出子と父との法律上の親子関係を確認または作り出すことをいいます。とはいえ、父は既に亡くなっていて意思表示ができませんので、訴訟によって法律上の親子関係が認定されます。

隠し子が死後認知請求訴訟を提起して勝訴し、その判決が確定すれば認知の効力が生じますので、その子は相続権を取得するのです。

死後認知が認められる確率

死後認知が認められるためには、隠し子の側で父との血縁上の親子関係を証明する必要があります。

裁判で最も重要視される証拠は、DNA鑑定の結果です。父は既に亡くなっていてるので、通常は父の嫡出子など近親者の協力を得てDNA鑑定をすることになるでしょう

DNA鑑定の結果、血縁上の親子関係の存在が濃厚であれば、ほぼ確実に死後認知が認められます。ただし、近親者といえどもDNA鑑定に協力する義務はないので、拒否することも可能です。

DNA鑑定が行われない場合でも、以下のような証拠によって父との親子関係が立証される可能性があります。

  • 出生時の病院の記録
  • 生前の父と隠し子とのやりとりがわかる手紙、メール、証言、写真
  • 隠し子の母親など関係者の証言

他にもさまざまな証拠があり得ますが、死後認知が認められるかどうかはケースバイケースです。

死後認知と相続に関する注意点

隠し子が死後認知請求訴訟を提起できるのは、父が亡くなった日から3年以内です(民法第787条但し書き)。ただし、やむを得ない事情がある場合には、3年が経過した後でも提訴が認められるとした判例もあります(最高裁昭和57年3月19日判決)。

期限後の提訴が認められるケースは少ないと考えられますが、関係が疎遠だと被相続人のしに気づかない可能性もありますので、隠し子の動向には注意が必要です。

また、訴訟には時間がかかるので、死後認知が認められたときには既に遺産分割が終了していることもあり得ます。その場合、隠し子は相続分に相当する価額の支払いを請求することになり、他の相続人は金銭の支払いに応じなければなりません(民法第910条)。

判例上、被相続人に借金などの負債があったとしてもそれは考慮せず、プラスの財産のみを対象として支払い額を計算しなければならないとされています(最高裁令和元年8月27日判決)ので、ご注意ください。

ただし、債務はとうぜんに承継されるとされていますので、求償することは考えられます。

認知された隠し子に認められる相続分は?

認知(死後認知も含みます。)された隠し子には、実子(嫡出子)とまったく同じ相続分を取得する権利が認められます。

ご相談のケースで、相続人が母・ご相談者(嫡出子)・隠し子(非嫡出子)の3名だとすると、相続分は母が2分の1、ご相談者と隠し子は4分の1ずつとなります。

この点、以前の民法では、非嫡出子には嫡出子の2分の1しか相続分しか認められていませんでした。しかし、平成25年9月4日の最高裁判決でこの規定違憲であると判断されました。現在では民法が改正され、嫡出子と認知された非嫡出子の相続分は同じとされています。

隠し子から相続分の請求があったときの対処法

もし、隠し子から相続分の請求を受けたら、まずは認知されているかどうかを確認しましょう。その後は以下のように対処することをおすすめします。

認知されていない場合

認知されていない隠し子(非嫡出子)には相続権がありませんので、基本的にはその旨を説明して請求を拒否すれば足ります。

ただし、父の死後3年間は死後認知請求訴訟を提起される可能性もあるので、それを回避するためには、ある程度の金銭を支払って解決することも考えられます。

その場合には、後のトラブルを防止するために合意書を作成して取り交わしましょう。その合意書には「これ以上の請求は行わない」という一文を入れておくことが大切です。

認知されている場合

認知されている隠し子は相続人の一人ですので、遺産分割協議に参加させる必要があります。原則として遺産分割は相続人全員で行う必要がありますが、万一、相続人を書いた状態で既に遺産分割が終了している場合には、原則として隠し子の相続分に相当する価額を支払わなければなりません。

ただし、相続人全員の合意があれば相続割合は自由に決めることができます。隠し子と冷静かつ穏便に話し合えば、少額の支払いでも合意してくれる可能性があるでしょう。

話し合いがまとまらない場合は、裁判所へ訴訟を提起することができます。とはいえ、訴訟になると法定相続分どおりの支払いを命じられる可能性が高いので、可能な限り話し合って解決することが賢明です。

なお、遺産分割終了前に認知された場合には、認知された隠し子も含めて遺産分割協議をする必要があり、まとまらなければ家庭裁判所で調停・審判という手続きを進めることになります。

まとめ

父が亡くなった後に隠し子がいることが判明すれば、さぞかし驚かれたことでしょう。

認知されていない隠し子に相続権はありませんが、死後認知の問題もありますので、できる限り冷静に話し合うことをおすすめします。話し合いがスムーズに進まない場合には、裁判所を利用した方がよいでしょう。