Q10.
子どもたちの仲が良くないので、自分の死後争わないように、遺言を書いておこうと思います。
自分の考えた通りの相続プランで相続させるには、遺言を書くだけで大丈夫でしょうか?
単に遺言を書くだけでは、将来、相続人の間において遺言の有効性について争いの生じることがあったり、また、遺言の内容とは異なる相続財産の処分によりトラブルの生じうることが懸念されます。
このようなトラブルを回避するために、遺言は法律に定められた形式に従い作成する、偽造や遺言能力を疑われないよう公正証書遺言にする、遺言の作成過程を撮影しておく、遺言時の遺言能力に関する診断書などの書類を取得するなどの対応が考えられます。
また、遺言において相続人ではない第三者を遺言執行者として指定しておくことにより、相続人の1人による遺言の内容とは異なる相続財産の処分を防ぐことができます。
遺言とは、簡単にいえば、人の自身の亡くなった時点の自己の財産(これを相続財産といいます。)の処分に関する意思表明です。
もし遺言を残さなかった場合には、相続財産は法律の定めに従い一定の範囲の親族(これを相続人といいます。)が法律の定めに従い承継されることになります。
つまり、遺言は相続財産の処分についてコントロールするための生前の意思表明であり、それは法律上尊重されます。
遺言を残すことにより、将来の相続人の間における相続の争いを防ぐことができます。
法的に有効な遺言を書くには、法律に従った形式により遺言を書く必要があります。
遺言の種類の代表は自筆証書遺言と公正証書遺言であり、前者はよくある遺言書を作成するものであり、後者は公証役場において遺言を公正証書化するものです。
それぞれの遺言について法律はその方式について規定しており、それに従わずに作成された遺言は無効になるため注意しましょう。
遺言は生前の本人の相続財産の処分に関する意思であるからこそ、法律上尊重されるのですから、本人以外の者が本人の名義で作成した遺言すなわち偽造された遺言は無効です。
他方、遺言の偽造が問題になるとき、本人は既に亡くなっているため、その問題は裁判にまで発展する可能性があります。
このようなトラブルを防ぐには、遺言が偽造されたものではないことを明確にしておく必要があります。
本人が法律の方式に従い遺言を作成したとしても、その時点において遺言能力を欠いている場合には遺言は無効です。
遺言能力とは、遺言の内容及びこれにより生じる結果について理解するに足りる事理弁識能力のことをいいます。
たとえば、重度の認知症に罹患している状況において作成された遺言については、遺言能力を欠く状況において作成された遺言であるとして、無効であると判断される可能性が高いでしょう。
仮に遺言は有効でも、その内容に不満のある相続人が遺言の内容とは異なる自己に利益となるような相続財産の処分を行えば、結局、相続人間のトラブルに発展します。
このようなトラブルを防ぐため、遺言において相続人ではない第三者を遺言執行者として指定することができます。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要となる手続を行う者です。
公正証書遺言とは、証人2人以上の立会のもと、遺言者が公証役場の公証人に遺言の内容を伝え、これを公証人が筆記して証人と遺言者に読み聞かせ、公証人を含めた関係人がその方法と内容に問題のないことの証として各自署名押印することにより作成される遺言です。
この公正証書遺言を作成すれば、まず遺言の方式や偽造の問題は生じません。
遺言はできる限り公正証書遺言が望ましいのですが、諸事情により自筆証書遺言による場合には、その方式に注意しましょう。
自筆証書遺言は以下の方式に従う必要があります。
なお、自筆証書遺言の方式は、近年の改正民法により緩和されており、以下の説明は平成31年1月13日以降に作成される自筆証書遺言について妥当するものです。
まず、遺言の全文(財産目録は除く。)、日付及び氏名を自書(手書き)して、押印する必要があります。
但し、財産目録に関しては、改正前の民法の定めとは異なり、自書である必要はなく(パソコンを利用したり、代筆してもらったり、登記簿謄本、通帳の写しの添付でもよい。)、全ページに署名及び押印をすれば足ります。
自筆証書遺言と公正証書遺言の双方において遺言能力は問題となります。
遺言能力について不安のあるときは事前に医師に診断して遺言能力について問題のないことを証明できる資料を取得しておきましょう。
そして、その資料については信頼のできる親族に渡す形でもよいので大切に保管するようにしましょう。
自筆証書遺言の場合において、その作成過程を第三者に撮影してもらうことも後のトラブルを防止するのに役立つことがあるでしょう。
遺言の作成過程が撮影されているため、遺言が偽造されたものではないことの証拠になりますし、遺言能力の有無を判断する際の資料に使うこともできるでしょう。
最後に遺言の内容に不満を抱くであろう相続人が遺言の内容とは異なる相続財産の処分をしてしまう不安のある場合には遺言において第三者を遺言執行者に指定しておきましょう。
遺言執行者は相続人全員を代理して不動産の登記名義を遺言の内容に従い移転したり、預金口座を解約して遺言の内容に従いその払い戻した金銭を分配したりします。
この遺言執行者は相続人の1人でもよいのですが、相続人間の争いの生じうるようなケースでは司法書士や弁護士など(遺言の作成の際に依頼した司法書士や弁護士を遺言執行者として指定することがあります。)の第三者を指定するのがよいでしょう。