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Q3.
同族企業のオーナーであった父が亡くなりました。
父は出資により同社の株式を多数保有していたのですが、名義上は当初から母の名義にしていました。
こちらの株は遺産分割の対象になるのでしょうか?

お母様名義の株式は、名義株式に当たる可能性が高いです。その場合は遺産分割の対象となります。
正しく遺産範囲の確認を行わなければ、株価によっては税務調査で追徴課税される可能性もあるので注意が必要です。

名義株式とは

名義株式とは、実際に会社へ出資した人とは異なる他人の名義が株主名簿に記載されている株式のことです。

平成2年までの会社法では、株式会社を設立する際に7人以上の発起人が必要とされていたため、実際には出資しない人の名義を借りることがよく行われていました。

株式の名義人と出資者のどちらが真の株主であるのかについては、判例上、以下のとおり判断されています。

現在の会社法では1人でも株式会社を設立することが可能となっていますが、同族会社などでは相続税対策の目的で、オーナーの配偶者や子どもを株式の名義人としているケースが多く見受けられます。

株式の引受および払込については、一般私法上の法律行為の場合と同じく、真に契約の当事者として申込をした者が引受人としての権利を取得し、義務を負担するものと解すべきである

引用元:最高裁昭和42年11月17日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/303/056303_hanrei.pdf

つまり、出資者が真の株主であるということです。ご相談のケースでも、母名義となっている株式の実際の出資者が父であれば、亡くなった父の財産、つまり遺産であることになります。

名義株式かどうかの判断基準

当初は名義株式であったとしても、その後に出資者から名義人へ株式の譲渡が行われるなどして、名義人が真の株主となっていることもあります。

そのため、問題となっている株式が名義株式に当たるかどうかは、さまざまな事情を考慮して慎重に判断しなければなりません。主に考慮すべき事項は以下のとおりです。

  • 株式の取得資金を拠出したのは誰か
  • 株券を誰が保管しているか
  • 株主総会に出席し、議決権を行使しているのは誰か
  • 配当金を誰が受け取っているか
  • 出資者から名義人への贈与契約書や譲渡契約書があるか
  • 名義人に株主としての自覚があるか

ご相談のケースでは、父が出資して母名義の株式としていたとのことですので、当初は名義株式であったと考えられます。

その後に実質的にも父から母へ株式が譲渡された実態がなく、母に株主としての自覚がない場合には、ほぼ間違いなく現在も名義株式であると判断してよいでしょう。

名義株式を放置した場合のリスク

母名義の株式が名義株式だとすると真実の株主は父ですので、遺産分割の対象としなければなりません。

もし、名義どおりに母の財産として放置すると、以下のリスクが生じる可能性があるので注意が必要です。

税務調査で追徴課税される

父の遺産総額が名義株式も含めて相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告と納付を行わなければなりません。名義株式の遺産分割を行わず、相続税の申告もしなければ、税務調査で指摘を受ける可能性が十分にあります。

相続税に関する税務調査は5件に1件程度の割合で行われており、その中でも名義株式については、税務署が厳しくチェックしているようです。

実際にも、税務調査で名義株式を指摘され、約40億円の追徴課税を受けた「飯田グループホールディングス事件」と呼ばれる有名な事案があります。

飯田グループホールディングスの創業者が2013年に亡くなった際、遺族は預金や不動産などの遺産については相続税の申告に含めたものの、長男名義となっていた資産管理会社の株式については除外していました。

しかしながら、2017年に税務調査に入った東京国税局は、この株式が名義株式に当たると認定し、約80億円の申告漏れを指摘したのです。

税務調査を受けると、高い確率でこのように追徴課税されることになります。追徴される税額は申告漏れの遺産額次第ですが、本来の相続税額に加えて無申告加算税や過少申告加算税も納付しなければならないため、経済的負担が非常に重くなることに注意が必要です。

事業承継税制が使えない

名義株式を遺産分割の対象とすることで相続税が発生する場合でも、子どもが亡き父の事業を引き継ぐのであれば「事業承継税制」を適用することで、相続税の負担を抑えることができます。

事業承継税制とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定を受けた非上場会社において、後継者が取得した資産にかかる相続税や贈与税の納付を一定の要件のもとに猶予する制度のことです。その後に後継者が亡くなった場合には、猶予されていた相続税や贈与税の納付が免除されます。

代々引き継がれて経営していく同族企業では、事業承継税制を適用するメリットが特に大きいといえます。

しかし、事業承継税制の適用を受けるためには、先代経営者が相続や贈与の直前まで会社の筆頭株主であったことという要件を満たす必要があります。名義株式のままでは先代経営者が筆頭株主として認められず、事業承継税制を適用できない可能性があるのです。

ご相談のケースでは父が亡くなったときに名義株式のままであった可能性が高いので、事業承継税制を適用してもらうためには、父が真の株主であったことを税務署に対して証明しなければなりません。

名義人が権利を主張することがある

名義株式の真の株主は出資者であるとはいえ、名義人がそのことを理解せず「自分の株式だ」と言って株主としての権利を主張することがあります。

ご相談のケースで、もし母がこのような主張を始めれば、相続問題だけでなく会社の運営にも支障をきたすことになりかねません。

名義株式と時効の関係

ご相談のケースでは、名義株式の状態が数十年にわたって続いている可能性もあると思いますので、名義株式と時効との関係についてもご説明いたします。

名義株式の状態が10年または20年続けば、理論上は名義人が株式を時効取得する可能性があります(民法第163条)。ただし、取得時効が成立するのは、その株式を「自己のためにする意思をもって」権利行使した場合に限られます。

ご相談のケースで、母が実質的には株主でないことを認識していて、会社の経営にも携わっていなかった場合は「自己のためにする意思」がありません。したがって、何十年が経過しても母がその株式を時効取得することはありません。

名義株式を相続する手続き

名義株式の正しい取り扱いについて母の理解が得られる場合は、名義株式も含めて遺産分割の手続きを進めていきましょう。

名義株式をそのまま母に相続してもらうのもよいですが、あなたが事業を承継する場合は、あなたが相続した方がよいでしょう。その場合は、遺産分割により株式の名義をあなた名義に変更する必要があります。

ただし、名義を変更するだけでは税務署から贈与とみなされ、贈与税を課せられる可能性があります。そこで、遺産分割協議書に名義株式として記載して分割したり、「名義書換の合意書」などを作成しておくことが大切です。

協議書・合意書には、その株式はもともと父が実質的な株主であり、遺産分割によって子どもの名義としたことがわかるように記載し、相続人全員が署名・捺印しておきましょう。

母が名義株式について理解せず、話し合いが進まない場合には、法的手段が必要となります。

名義株式を解消するためにはさまざまな方法がありますが、相続問題のケースでは家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立て、株式名義の書き換えを認めさせることが最も有効と考えられます。
ただし、そもそも遺産かどうか争いがある場合には、まずは地方裁判所で遺産確認の訴えをしなければならない場合もあります。

なお、相続税の申告・納付は相続開始の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。調停・審判などで遺産分割の手続きが間に合わない場合には、名義株式も含めて法定相続分どおりに相続したものと仮定して、期限内に相続税の申告・納付をしておきましょう。そうすることで、追徴課税を回避することができます。

まとめ

母名義の株式が名義株式に当たる場合は、その株式も含めて遺産分割を行うことになります。それにより相続税が発生する場合には、期限内に相続税の申告・納付を行わなければ追徴課税を受けてしまう可能性が高いです。

まずは名義株式に当たるかどうかを慎重に判断し、当たる場合には母と話し合って遺産分割を行いましょう。

母との話し合いがスムーズに進まない場合は、遺産確認の訴えや遺産分割調停または審判を利用した方が早期の解決につながりやすいです。