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Q5.
父がなくなり、遺品の整理をしていたところ、父の遺言書が出てきました。
その場は⼀旦、兄が遺言書を保管して、後日検認手続をする予定でしたが、兄が一向に手続きをしてくれません。
母はなくなっており、相続人は兄と私だけなのですが、どうしたらいいでしょうか?

検認を受けなくても遺言書が無効となるわけではありませんが、そのままでは相続手続きができません。
対処法としては、遺言書とは別内容の遺産分割協議をする、遺産分割調停・審判を申し立てる、兄の相続欠格として相続手続きを進めるなど、いくつかの方法が考えられます。

遺言書の検認とは

遺言書の検認とは、その時点における遺言書の内容を明確にして以後の偽造や変造を防止するために行われる家庭裁判所の手続きのことです。

被相続人(亡くなった方)の遺言書を発見したときは、検認について以下のことを知っておいた方がよいでしょう。

検認を受けなくても遺言書は無効とならない

検認は遺言書の状態を確定してその現状を明確にするものに過ぎず、家庭裁判所が遺言書の有効・無効を判断するものではありません。
そのため、検認を受けないことが理由で遺言書が無効となるわけではありません。

ただし、家庭裁判所の検認済証明書がついていない遺言書では相続手続きができません。
不動産の相続登記もできませんし、預金口座の解約や名義変更なども金融機関が応じなくなるのではないかと考えられます

期限の定めは特にない

遺言書がある場合は、相続が始まったことを知った後に遅滞なく検認を受けなければならないこととされています(民法第1004条1項)。

「遅滞なく」とは、「事情が許す限り早く」といった意味ですが、具体的に何日以内と決められているわけではありません。
実際には、相続開始から数ヶ月、数年が経過した後でも検認は受け付けてもらえます。
また、封のある遺言は裁判所で開封しなければなりません。

ただし、検認を受けない場合や、家庭裁判所外で遺言書を開封すると5万円以下の過料というペナルティを受けることがあるので(同法1005条)、注意が必要です。

検認が不要なケース

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。

このうち、公正証書遺言については検認を受ける必要はありません。また、自筆証書遺言でも法務局での保管制度を利用している場合は検認不要です。
これらの場合は、すでに遺言書の状態が公的に確定しており、偽造・変造のおそれがないからです。

被相続人の自宅内で遺言書を見つけた場合でも、公証人役場や法務局に原本が保管されている可能性はあります。それぞれ、所定の手続きで確認しましょう。

遺言書を隠匿した人に対するペナルティー

ご相談のケースでは、兄が遺言書を保管したまま一向に検認の手続きをしないということですが、この行為は遺言書の「隠匿」に該当する可能性があります。

遺言書の隠匿は相続欠格事由に該当するため、隠匿した人は相続人としての資格を失います(民法第891条5号)。

また、私用文書毀棄罪という犯罪にも該当するので、「5年以下の懲役」という刑事罰を科せられることもあります。

そこで問題となるのは、ご相談者の兄の行為が遺言書の隠匿に当たるのかどうかということです。

遺言書の隠匿に当たるケース

判例上、民法第891条5号にいう「隠匿」とは、次の2つ要件を両方満たす場合が該当するとされています(大阪高裁昭和61年1月14日判決)。

  • 故意に遺言書の発見を妨げるような状態に置くこと
  • 遺言書を隠匿することにより自分が相続で有利となるか、不利になることを避ける意思に基づくこと

この判例の事案では、問題となった遺言書が公正証書であったことから、遺言書の発見を妨げるような状態に置いたとはいえないと判断されました。
相続で自分が有利となったり、不利になることを避けるような意思があったとも認められないとして、問題となった行為は遺言書の隠匿には当たらないという結論となっています。

その他の判例として、被相続人が亡くなった後約10年にわたって遺言書を金庫の中に保管し、検認の手続きをしなかったケースでも、相続で不当な利益を得る目的による行為ではないとして、遺言書の隠匿には当たらないとされたものもあります(大阪高裁平成13年2月27日判決)。

一方では、相続人の一人が遺言書の執行を妨げる目的で遺言書を預かって返還せず、検認の手続きもしなかったケースで、遺言書の隠匿に当たると判断されたものがあります(千葉地裁八日市場支部平成11年2月17日判決)。

ご相談のケースでは、兄が遺言書を保管したまま検認の手続きをせず、返還を求めても応じない場合は、遺言書の発見を妨げるような状態に置いているといえます。

ただ、相続で自分が有利となるか、不利になることを避ける意思に基づく行為であるかどうかはわかりません。

もし、遺言書の内容が兄にとって納得できないものであり、遺言書の執行を避ける意思を有しているとすれば、遺言書の隠匿に当たります。
その場合、兄は相続人の欠格事由に該当するため、相続できないことになります。

他の相続人が遺言書を渡さないときの対処法

ご相談のケースのように、他の相続人が遺言書を預かったまま返還せず、検認の手続きもしないときは、以下の対処法によって解決を図ることができます。

遺言書と異なる内容で遺産分割協議をする

最も穏便な解決方法は、遺言書と異なる内容相続人全員で遺産分割協議を行うことです。
相続人全員が合意すれば、遺言書の内容とは異なる方法で遺産を分けることができます。
遺産分割協議が成立して産分割協議書を作成すれば、遺言書の検認を受けなくても相続手続きができるようになります。

ご相談のケースでも、ご自身が納得できるのであれば、遺言書の内容にかかわらず兄に遺産分割協議を持ちかけてみるとよいでしょう。

その相続人を説得する

遺言書の内容どおりに相続するか、少なくとも遺言書の内容を確認しなければ納得できない場合は、遺言書を保管している相続人を説得してみましょう。

検認の手続きを行わなければ相続手続きができないことや、過料の制裁があることなどを説明すれば、家庭裁判所で手続きをしてくれるかもしれません。

その相続人が忙しくて手続きできないのであれば、ご自身が遺言書を預かって家庭裁判所に行くことを申し出てもよいでしょう。

相続欠格とみなして相続手続きを進める

遺言書を保管している人の行為が遺言書の隠匿に当たる場合は、その人は相続欠格に該当するため相続権が認められません。

その場合には、その人に「相続欠格者であることの証明書」を作成してもらえれば、相続登記や預金の解約、名義変更などの手続きができるようになります。

ご相談のケースでは、相続人は兄とあなただけということなので、兄が相続欠格であれば あなたが単独で相続手続きを進めることが可能です。
なお、兄に子がいる場合には、代襲相続の規定により、兄に代わってその子が相続人となります(民法887条2項)。

ただし、遺言書を隠蔽 している人が相続権を主張して 証明書の作成に応じるとも思えませんので、その場合には 「相続人の地位を有しないことの確認を求める訴訟」を起こす必要があります。
この訴訟で勝訴すれば、確定した判決書の謄本をもって相続手続きができます。

遺産分割調停または審判を申し立てる

現実的な対処法として、遺産分割調停または審判を申し立てることも考えられます。

家庭裁判所の調停委員を介して話し合うことで、相手方に遺言書の検認手続きをするように促すことも可能です。
応じない場合でも、相手方の相続分を少なくするなど柔軟な遺産分割案で合意できる可能性もあります。

話し合いで合意できない場合には、相手方が相続欠格に該当することを立証できれば、審判で相手方の相続分をゼロとする内容の遺産分割方法を決定してもらうことも可能です。
(通常は、先に裁判所で相続欠格を確定させる必要がります。)

まとめ

遺言書を保管している相続人が一向に検認手続きをしない場合には、話し合って解決できれば理想的ですが、法的手段を使って強制的に解決しなければならないこともあります。

ただ、弁護士を間に入れることで話し合いがスムーズに進むこともありますし、法的手段をとる場合にも弁護士に任せれば安心です。

ご相談のケースでも、いくつかの解決方法が考えられますので、まずは弁護士のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。