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Q7.
父がなくなり、継母と私で遺産分割をすることになりました。
自分が土地と家を相続することになったのですが、継母が出ていってくれません。
私と継母は折り合いが悪く、話し合いが進まないのですが、立ち退いてもらうにはどうしたらいいでしょうか?

①Qに対する法的な回答

まず、2020年4月1日以降の相続のケースでは、相続開始日より6ヶ月間は義母に対して立ち退きを求めることができない場合があります。

次に、義母に対して立ち退きを求めることができる場合でも、まずは任意での立ち退きに応じてもらうための交渉を行いましょう。

それでも義母が立ち退きに応じてくれないのであれば、義母に対して所有権に基づく建物の明渡しの訴訟を提起した上、強制執行の手続により、立ち退きを強制的に実現することができます。

最後に次善の策として、義母の相続建物の居住を許容できるのであれば、義母と建物の賃貸借契約を締結して、家賃を受領する形での解決を検討しましょう。

②その理由・根拠

2-1 2020年4月1日以降の相続の場合には配偶者短期居住権に注意!

2020年4月1日施行の改正民法において配偶者短期居住権という制度が導入されました。

配偶者短期居住権とは、相続開始時において相続財産の建物に無償で居住していた配偶者が遺産分割により所有者の確定した日または相続開始から6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日まで当該建物に居住できる権利をいいます。

今回のケースでは遺産分割により既に建物の所有者は確定していますが、相続が2020年4月1日以降であり、かつ、義母に配偶者短期居住権の認められるときには、相続開始日より6ヶ月経過するまでは、義母に対し建物からの立ち退きを求めることはできません。

2-2 義母が不法占拠しているとしても自力救済は禁止されている!

遺産分割協議により建物を単独所有することになり、かつ、義母に配偶者短期居住権などの建物に居住する権利の認められない場合には、端的に義母は建物を不法に占拠している者となります。

しかし、いくら義母が不法占拠者であるとしても、あなたが直接に義母と義母の持ち物を建物から外に出すことにより立ち退きを実現させてしまうこと(自力救済といいます。)は法律上禁止されています。

このようなときには、強制執行という裁判所の手続を通じて義母の立ち退きを国家機関の介入により実現することになります。

2−3 建物からの立ち退きは任意に行われることが多い!

強制執行による建物からの立ち退きは、まさに国家機関が強制的に建物の不法占拠者を排除するものであり、多くの場合、そのような運命が待っていることを悟れば不法占拠者も自分の意思で建物から立ち退くことになります。
特に今回のようなケースであれば、あなた自身も義母に対してそこまでの手段を使いたいとは思わないでしょう。

②どうすればよいのか?

3−1 義母の配偶者短期居住権等の建物に居住する権利の有無を確認する!

まずは、義母の建物に居住する権利の有無について確認しましょう。

もし義母が建物に居住する権利を有しているときには、当然あなたは義母に対し立ち退きを求めることができません。

たとえば、義母が亡き父より当該建物を賃借して居住している場合には、遺産分割により当該建物を単独所有することになったとしても、義母の賃借権は当然には消滅しないので当該建物の居住権を有します。

また、2020年4月1日以降の相続のケースでは、相続開始日から6ヶ月を経過しない期間、配偶者に相続建物の居住権(配偶者短期居住権)が認められることがあるため、この点にも注意しましょう。

3−2 立ち退き料の支払や建物の賃借なども検討してみよう!

建物の立ち退きに関しては強制執行に要する時間と費用が少なくないことなどから、可能な限り任意での立ち退きに応じてもらえるよう、適宜一定の譲歩を示しながら交渉していくことも大切になります。

建物からの立ち退きの交渉においては、特に次の2つの点について検討しましょう。

第1に、もし義母が当該不動産に居住し続けたいと望んでいるのであれば、義母に当該不動産を賃貸して、家賃をもらう形で解決することはできないか検討しましょう。

もちろん、あなたが当該不動産に何としてでも義母のいない状態で居住したいと考えている場合や義母が家賃を払うことを拒否したり、あるいは、現実的に家賃を払える状況ではないのであれば、このような解決はできないでしょう。

第2に、義母に立ち退き料を払う形で出ていってもらうことを検討しましょう。

この場合には立ち退き料という金銭の支払を負担することになるため、その金額にもよるでしょうが、あなた自身がそのような負担を拒否するのであれば、このような解決はできません。

3−3 立ち退きの最終手段は強制執行!

義母が当該不動産に居住する形での解決や立ち退き料の支払を条件に任意で立ち退く形での解決が難しい場合には、強制執行という手段により立ち退きを強制するほかありません。

このような強制執行を行うには、まず義母の当該不動産の明渡し義務の履行を内容とする債務名義が必要となります(民事執行法22条)。

債務名義とは簡単にいえば特定の債務の存在及び内容を公的に証明するものです。

その代表例は確定判決であり(同条1号)、今回のケースでは義母に対し建物の明渡しの訴訟を提起して、その勝訴判決が債務名義になります。

そして、可能な限り任意の立ち退きを並行して求めつつ、それでも義母が立ち退いてくれないときには、先の債務名義などの必要な添付資料と強制執行の申立書を裁判所に提出すれば後は裁判所の執行官が義母の立ち退きを強制的に実現することになります。