Q8.
私は3兄弟の末っ子で、自宅不動産を共有の持ち分(3分の1ずつ)で相続しました。
長兄がお金に困ったようで、自宅不動産を売ってお金に変えたいと言い始めましたが、次兄が反対しています。
私としては、共有になっている不動産は使いにくいので、売ってお金に変えたいと思っているのですが、次兄が反対している限りできないでしょうか?
共有財産の売却は共有者全員の同意を必要とするため、原則、共有者の次兄の反対により自宅不動産を売却することはできません。
他方、自宅不動産そのものではなく、自宅不動産に対する自己の持ち分を売却することは他の共有者の同意を必要としません。
したがって、売却に反対する次兄の持ち分を買い取ることができれば、反対する共有者は存在しなくなるため自宅不動産を売却することが可能となります。
最後に、家庭裁判所の遺産分割の審判により、自宅不動産を売却して、その売却金を持ち分に応じて分割することが認められる場合があります。
相続人が数人あるときは、相続財産は、各相続人の相続分に応じた共有となります(民法898条)。
そして、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることはできないとされている(民法251条1項)ところ、共有物の売却はこの「変更」に該当すると考えられています。
そのため、各相続人の共有となっている相続不動産については、共有者全員の同意のない限り売却することができないのです。
したがって、今回のケースでは、共有者の一人である次兄が反対している以上、共有財産である自宅不動産を売却することはできません。
但し、各共有者は他の共有者の同意なく自己の共有持分を売却することはできます。
以上を踏まえれば、今回のケースでは、次兄から共有持分を買い取り、次兄を自宅不動産の共有者から外すことにより自宅不動産を売却することができます。
しかし、次兄が共有持分の売却に応じないときには、自己の共有持分を売却することはできるとしても、自宅不動産の売却はできません。
このような場合でも、家庭裁判所の遺産分割の審判(民法907条2項)により、換価分割の認められる場合には自宅不動産を売却して、その代金を相続分に応じて分割することができます。
もっとも、遺産分割の方法の原則は現物分割すなわち遺産を構成する不動産を各相続人の単独所有とする方法であるため、今回のケースにおいて、自宅不動産以外に遺産を構成する不動産のある場合には、換価分割は認められない可能性が高いでしょう。
他方、遺産は唯一自宅不動産であり、かつ、次兄に金銭の支払能力のないようなとき(金銭の支払能力のある場合には代償分割といい、自宅不動産を次兄に取得させ、その代償としての金銭を他の相続人に支払わせる形での分割になるでしょう。)には、換価分割が認められる可能性があります。
まずは、自宅不動産の売却に反対する次兄と話し合って、次兄の持ち分を買い取る形での解決を考えます。
とはいえ、次兄が持ち分の買い取りに応じるのであれば、そもそも自宅不動産を売却して売却代金を持ち分に応じて分ければいいのですから、このケースでは次兄の持ち分を買い取る方法は難しそうです。
次兄の反対により自宅が売却できないとしても、持ち分を金銭に換えることができるのであれば、それでもいいでしょう。
そこで、自宅不動産を維持したい次兄に自身の持ち分を買い取ってもらうよう交渉するのがいいでしょう。
このとき持ち分の代金を適正に算定するため不動産業者に査定してもらうのがよいでしょう。
もし、次兄が自身の持ち分の買い取りに応じないときでも、長兄が買い取ってくれるのであればそれでも構いません。
他方、次兄も長兄も持ち分の買い取りに応じてくれないときには、第三者に買い取ってもらうほかありません。
しかし、通常、赤の他人と共有することになり、単独での使用収益のできない不動産の持ち分を買い取る人はあまりいません。
もっとも、最近では共有持ち分を買い取り、その後、他の共有者に持ち分を売却して差益を得ることを目的とした共有持ち分の買い取り業者が存在します。
このような共有持ち分の買い取る業者を探して自身の持ち分を売却することも不可能ではありませんが、そのような業者はビジネスを目的としているため安く買い取られるリスクがあることに注意しましょう。
最後に共同相続人は遺産の分割について協議の調わないときには、遺産の全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求できます(民法907条)。
なお、細かい話ではありますが、相続により相続人の共有となった財産については、家庭裁判所に対して遺産分割の審判を求めるべきであり、共有物分割の訴えを提起することは許されないとするのが判例です(最高裁昭和62年9月4日判決)。
遺産分割の審判は被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に請求します。
手続きに要する費用は1200円です。
遺産分割の方法は、①現物分割⇒②代償分割⇒③換価分割⇒④共有分割の順番に検討されることになっていますが、当事者の希望などは考慮されます。
今回のケースにおいて自宅不動産以外にも相続不動産のあるような場合には、自宅不動産を売却する方法での遺産分割は認められない可能性が高く、他方、相続財産が自宅不動産だけであり、次兄に代償金の支払能力のないような場合には、換価分割の認められる可能性はあるでしょう。