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Q9.
自分の死後、子供2人に1億円ずつ相続させようと思っています。
長男はしっかりしているのでいいのですが、次男は浪費家なため、できれば妻から毎年一定金額ずつ相続分を次男に渡してもらうようにしたいのですが、そういうことは可能でしょうか?

①Qに対する法的な回答

あなたは、民事信託を活用することにより、次男に相続させたい1億円を妻に託し、毎年一定の額を次男に渡してもらうようにすることができます。

ここで重要なのは、民事信託は単なる希望や期待に過ぎないものではなく、法的な制度に則ったものだという点です。

つまり、民事信託を利用することにより、1億円を託された妻は毎年一定の額を次男に渡す法的義務を負うのです。

②その理由・根拠

2-1 相続財産の使い方は相続人の自由

まず、単純に次男に1億円を相続した場合、その全額が次男のものになり、その使い道を制限することはできず、すべて次男の自由です。

そのため、単に相続させるだけでは、次男の浪費により相続した1億円全額を短期間のうちに使い果たしてしまう危険があり、不安になります。

2-2 民事信託とは何か?

しかし、民事信託を活用すれば、そうした次男の浪費の危険に対する不安を解消することができます。

では、そもそも民事信託とは一体何なのでしょうか。

ここでの民事信託とは、簡単にいえば、自己の財産を信頼できる家族などの第三者に一定の目的に従い管理・処分させるために託すことです。

2-3 民事信託の具体的内容

まず、民事信託の種類・方法としては、主に①信託契約による方法と②遺言による方法の2つあります。

次に、自己の財産を託すものを委託者、託される者を受託者、そして信託により利益を享受する者を受益者といい、また託される財産を信託財産といいます。

民事信託の効力が発生すると、信託財産は受託者の所有になります。

しかし、受託者は信託財産を自由に処分することはできず、信託において決められた目的に従い、受益者のためにそれを管理・処分する義務を負います(信託法2条5項)。

また、信託財産は受託者の所有財産となりますが、民事信託の制度趣旨に鑑み、法律上は受託者の固有の財産とは区別して取り扱われます。

具体的には、受託者の債権者は信託財産を差し押さえることはできず(同法23条1項)、また仮に受託者が破産した場合でも信託財産は破産手続において処分の対象となり得る財産にはなりません(同法25条1項)。

このように民事信託を活用すれば、自己の財産を受託者の固有の財産とは区別したものとして受託者に所有させ、これを一定の目的に従い管理・処分させることが可能となるのです。

②どうすればよいのか?

3−1 民事信託の種類・方法の選択

まず民事信託の方法を選択する必要があります。

具体的には信託契約と信託遺言のいずれかを選択します。

ただ、1億円を次男に渡すことだけを目的とする今回のケースでは両者に大きな違いはありません。

3−2 信託契約と遺言信託の内容を書面化する

信託契約の場合には、生前、あなたと妻の間において、あなたの死亡を信託の効力発生の始期として、1億円を毎年◯◯円、次男に渡すことを内容とする契約を締結します。

他方、遺言信託の場合には、先ほどの信託契約と同様の目的に従い管理・処分することを託して1億円を妻に相続させる内容の遺言を行うことになります。

そして、どちらの場合でも、死後の紛争を避ける意味でも、信託契約・信託遺言を公正証書化しておくのがよいでしょう。

3−3 民事信託では老後の生活費の管理と死亡後の財産承継を同時に実現できる

以上は、単純にあなたの1億円を死亡後毎年一定の金額ずつ次男に渡すことを内容として妻に管理・処分させる信託を行うためにすべきことです。

最後に、今回のケースとは若干異なるケースを想定した民事信託について説明します。

まず、亡くなるまでのあなたの老後の生活のお金について、妻に管理をお願いした上、あなたが亡くなった後は1億円を次男に毎年一定の額を渡すようにする信託も可能です。

このような信託は受益者連続型の信託契約といい、遺言信託の方法では不可能です。

具体的には、生前は受益者をあなた自身として設定した上、あなたが亡くなった場合には第二次受益者として次男を指定することにより、死亡後の相続財産を引き続いて信託内容に従い妻に管理・処分させることができます。

今回のケースにおいて自宅不動産以外にも相続不動産のあるような場合には、自宅不動産を売却する方法での遺産分割は認められない可能性が高く、他方、相続財産が自宅不動産だけであり、次兄に代償金の支払能力のないような場合には、換価分割の認められる可能性はあるでしょう。

3-4 受託者や受益者の死亡した場合に備えた信託もできる

次に、もしも受託者の妻が亡くなったときに備えた信託もできます。

具体的には、信託契約あるいは遺言信託において、受託者の死亡した場合の二次受託者を指定しておくことにより、妻が死亡した場合でも、次男に毎年一定の金額を渡す内容の信託を二次受託者にさせることができるのです。

今回のケースでは二次受託者に長男を指定しておくことにより、万が一、妻が亡くなったときでも、長男が信託を引き継ぐことができるのです。

それでは、あなたが亡くなった後、不幸にして受益者である次男も亡くなった場合、信託はどうなるのでしょう。

信託は受益者の死亡により終了することはなく、受益の権利は相続されます。

つまり次男の相続人に受益の権利は相続されるのです。

但し、信託契約や遺言信託において、受益者の死亡した場合の次の受益者を指定することができます。この場合には信託の受益の権利は相続によることなく、指定された次の受益者に移ることになります。

以上のように民事信託を活用すると死亡後の自己の財産をかなり柔軟に一定の目的(希望)に従い管理・処分させることが可能となるため、認知度の割には使い勝手のよい制度であるといえます。